「結局は貴女に異能があるかどうかという問題では無いのよ…それをまず理解してほしいの。」
真奈美は目の前の少女が発した言葉の意図を図りかね、意識の置き場を失っていた。
そもそも何でこんな話になったんだっけと思い今日の出来事を思い返してみる。
今日は久々の完全フリーの休日で何をするかとワクワクしていた時の突然の呼び出し。
しかも借りを作っていた彼女からの断れないヤツ。
それで不条理に奪われたフリーの時間を嘆きつつも出かけて行ったんだ。
いつもの生活エリアから出ると心細くなるのは仕方ない事だが、ここで対応をミスるとまたいらぬトラブルを抱えることになる。
なので真奈美は自分が知りうる最もおしゃれなベイエリアの店を待ち合わせ場所に選んだ。
目の前には美術館にゆったりとした街道、地下鉄直結の複合商業施設とまるで映画の舞台のような景色があるところだ。
少し背伸びしすぎたかな…?
久々に訪れたそのエリアは変わらずその存在感を示していて、踏み込む者を選別しているかのようだった。
それでも意識をしっかり持って待ち合わせの場所へ赴くと、これまた映画のヒロインそのもののような白いワンピースの美少女。
もちろん自分を呼び出した待ち人では無い。
これは夢か誰かの心象風景にでも取り込まれたのかと戸惑う真奈美だったが、場所は間違っていない。
どうしたものかと戸惑っていると、彼女は分厚い冊子を取り出してカフェのテーブルの上に広げた。
それは一目で見てわかる有名同人イベントのカタログだった。この場とのミスマッチを表現する言葉が出てこない。
これは完全に夢の中だな…
完全に確信した真奈美は回れ右をして帰ろうとした時呼び止められて今に至るわけだ。
真奈美はワンピースの彼女に今一度意思疎通を試みる。
「朝比奈つばささん…でしたっけ。いまいち話が見えないんですけど前提から説明してもらっていいですか?」
「そう、事態が飲み込めないならもう一度言うけど貴女の持つ異能、量子的な現実を捻じ曲げる力は野放しにはできないモノなの。しかし組織にとっては有益なこと。それをまず理解して欲しい…いいかしら?」
無益な押し問答は平行線で何も生まない不条理を感じた真奈美が席を立とうとしたとき、この場に不快な違和感が生まれている事を気付いた。
人が、木々や世界そのものが泣き叫ぶように呻き何かを訴えているように感じる。
いつの間にか背中に輝く翼を持つ少女がこちらに近づいてきていた。
その目は失望と憎悪に満ちていて生気はまるで感じられない…しかし恐るべき決意を秘めていることは伝わってくる。
真奈美はその敵意がこの世界に向けられている事を感じ取り、戦闘態勢へ移行する。
後にイマジナリー・リフレクターという二つ名で呼ばれることになる真奈美の突然の初陣、「天使」との戦いが前触れもなく始まった日の事だった。
