「今のところ”仕様書”の変更は必要ないと考えます。これからも細心の注意を持って対象の監視を継続し続けていく段取りは変わりありません。ご期待に沿えるよう微力を尽くします。」
…よし。
いかにもお偉方が好きそうな書式で書き上げた報告書をまとめ上げることができた。
悠未は一息つくと差し入れでもらった豆から焙煎し丁寧に淹れられたコーヒーを味わい、満足感を噛みしめる。
なるほど彼女の豆のチョイスは今回も外すことのない的確さで私の生活のクオリティ向上に貢献してくれている。
そして眼下に広がる一帯の緑地は僅かではありつつも私の心苦しさを和らげてくれているように感じた。
唐突にこの都心のラウンジに呼びつけられた時は何とも不躾なことをと思ったものだが、この景色と時間を思えば徒労ではなかったと思える。
及第点をあげてもいいのではないか?
意味も無く上からの心中メモに記し、悠未は彼女との打ち合わせで得られた提案の内容データをデバイスで読み返す。
彼女の描いたシナリオは期待以上の出来で有用性も十分だ…それは認めよう。
しかし本格的なバックアップはこれからの展開戦略を見定めてからだけどね。
悠未は珍しく上機嫌で紫煙をくゆらす…真似をする。
口にくわえたシガレットチョコをもてあそびながらその気分に浸るのは日々のメンタルケアに必要なのである。
ケース単位の購入を経費で精算しているのはちょっとしたお茶目だ。
このまま用意された穏やかな時の流れにもう少し浸っていたかった悠未であったが、この後も予定はみっちりである。
名残惜しそうに席を立って振り返ると、背後に妙な違和感を感じた。
恐る恐るその方向を確認するとそこに気配の主が存在していた…その当然なことに動悸が止まらないでいる。
あまりにも不自然な硬直をしている悠未に対して気配の主である少女は僅かに微笑み、軽い会釈をして通り過ぎていく。
彼女がいた空間はあまりにも華やかな空気が今も漂っていて、異様な圧力を放っている。
悠未は生まれながらの統率的シンボルを意識に焼き付けられたような感覚を抱いて呆然と立ちすくむしかなかった。
