一度決意は固めたが依然悠華の意識は自らの土台を見失い、焦りと心細さに揺らいでいた。
今まで積み重ねてきた経験則はその実用性を感じられずに他人事のような感覚で頼りにならない状態だった。
お父様、お母様、おじい様…私は何を基に答えを出したらいいの?
そもそも私がこの問題を解かなければならない必要は無いんじゃないの?
今すぐお家に帰っていつもの温かいミルクを飲んで眠りたい…そうすれば何もかも皆が助けてくれるはず。
悠華の自我は完全に自律思考を止めており、現実逃避に飲み込まれていた。
その瞳にいつもの凛々しさは無く、焦点が合っていない意識は何の決断をすることも無い。
パーカーの少女はその様子を何とも楽しそうに眺めていた。
…あとは庇護者の幻像に自損命令を出させれば任務完了。思っていたほど難しくはなかったな。
少女は最後の決め手を出すべく指を鳴らそうとして、不自然な違和感があることに気付いた。
待てよ…?この状態ならもっと取り乱してもいいはず。今のお嬢様はわずかな敵意や害意にも耐性が無い状態だ。
この空間内の圧力で気絶なり失神なりしていてもおかしくない。
未だ人形のように虚ろな目で立ち竦んでいる悠華の状態を改めて確認した少女はより警戒心を強める。
もう少し遊んでいたかったが不確定要因で対処不能なイレギュラーが起こっては元も子もない…この場は早々に締めるとしよう。
少女は自らの異能空間の密度を最大限に上げて悠華への精神負荷を跳ね上げる。
これでさよならだよお嬢様。もう何も悩むことも苦しむこともない世界へ送り出してあげる。
少女が自分の勝利と任務達成を確信したとき、無防備なはずの悠華から得体の知れない威圧感が放たれているのを感じた。
先程の些細な違和感は今や明らかな異変として少女の目の前に現れている。
少女はいつの間にか悠華の背後に煌々と燃え盛る炎を視認していた。
その炎はいつの間にか少女の心に燃え移り、激情の如く少女の精神を灼き尽くしていく。
馬鹿な…”救済の炎”が本人の意思を離れて機能するなど聞いていないッ…あああッ!
パーカーの少女の思考はそこで途切れ、意識は暗闇の中へ落ちていった。
観客のいない舞台の一幕は誰かの描いた脚本通りにその幕を閉じる。
その誰かの満足げな拍手は空しく虚空に吸い込まれていった。
