「やっぱりデートの時はバニラアイスしかないよね…」
「は?」
「起こりうるから奇跡という言葉が存在するんだと思うし…」
「はあ…」
仁奈はお目付け役のエージェントに意味もなく絡んでいた。
勿論飲酒はしていないしそもそも未成年なので体面上アルコールは控えている。
最近は任務に駆り出されることも少なくなっていて決められた待機の拘束時間はとりとめの無い雑談でメンタルケアに勤しむのが日常となっていた。
そう別に人間に話しかけているという事実だけ認識できれば会話が成立していない生返事だけでも満足できる。
前髪をくるくると指に巻き付けてどうでもいいやりとりを続けること小一時間…
任務についての打ち合わせだけ済めば不要なコミュニケーションなどの感情労働をしたくない仁奈お目付け役のエージェントの彼女の精神状態は刻々とすり減らされていた。
できれば必要な情報共有だけして直帰したい彼女の精神衛生状態は限界以上に汚染されている。
ガールズトークの体でずけずけと土足で個人的情報を聞き出そうとしてくる仁奈に対して彼女は何とか適応しようとして疲弊しているのだ。
しかし組織の縦割り構成上上位に位置する仁奈への拒否権は彼女に存在しない。
そして現場でのフォローや日常の仁奈のメンタルケアは逃げ出せない役目…
救ってくれる神も祈るべき救世主も存在してくれない中、彼女は孤軍奮闘を強いられるしかない状況である。
それでも健気に任務に殉ずる私は正に理想的な殉教者だ…
エージェントの彼女は最大限自分を美化し、何とか自分をなだめて役目を果たすモチベーションを生み出そうとする。
自分の健気な献身は報われて当然であり救われなければならないと思うほか無いではないか?
彼女は葛藤に悶えながらも仁奈との会話に応じようとしている。
その内心を見透かした仁奈は眼前のお目付け役のなんとも切実で悲愴感漂うその一人芝居をもう少しの間楽しむことにした。
