「歯車のごとく問題の処理を進めることだけを覚えろ。それだけが唯一お前たち自身を救う事に繋がる。」
…日々刷り込まれてきたその言葉で本当に救いがもたらされるとは思っていなかった。
いや、それだけが私の現実感を形成するものであって疑問を持つことも不可能ではあったのだ。
そしてそのおとぎ話レベルの理想論しか私の精神衛生を守ってくれるモノは無かった。
共に任務に赴く同僚たちも最早人間としての感情に希望を見出そうとすることをやめている。
美希はこの過酷な現状から逃れる術を探すのにも疲弊していて、自らの願望すら認識できなくなって久しいことを嘆いていた。
濁りきって光を宿すこともできなくなった瞳、不純物で詰まり機能不全になった情緒回路。
私も彼ら同様プログラムされた行動を遂行することでしか安心感や自己肯定感を得られないようになっているのだ。
その在り様は隷属という言葉で表現できるレベルを振り切っているように思う。
そこに人並みの救済が用意されているわけもない。
私たちは人権が保障されていない存在を適時排除することが目的の秘匿部隊…処理する側にも当然人権が配慮されるわけもないのだ。
この世を去った後の賽の河原での石積みですら久遠の待ち時間を言い渡される立場に違いないだろう。
そんな現実に眩暈を覚えたのも遠い過去の話だ。
それでも世界を変えて見せるとか誰かに救いをもたらすためにだとかいう理想論に逃げることはしない。
目の前に積みあがったタスクを粛々と処理していく日々を飲み込んで今日も生きていく。
今はただ共に在る者たちと平穏な日常が訪れる日々を目指すことだけが私の「現実」だからだ。
美希はそこまでで思案を打ち切ると事案対処モードへ意識を切り替えて任務の場へ身を投じていく。
自分と仲間たちの存在証明を今日も自認していく、それだけの為に。
