あまりにも生温い空気が聖堂の中に満たされている。
それは母親の胎内を連想させるようような安息の在り方だ。
敵の能力による異空間ではないのか?いや、その敵自体はどうなった?
未だに現実に戻った実感の無い悠華は目の前の真に対して、それが幻像でない事を願いながらとりあえず現状確認をしていく。
「確認しておくけどここは現実の空間で間違いない?今はどれくらい時間が経っているの?」
あまりにも要領を得ない質問を聞いた真は心配そうな顔で言葉を選び、応答することにする。
「そうだね…悠華がいきなり棒立ちになってから1,2分といった程度かな。一応周りの警戒はしておいたけど何らかの領域が展開されていることは確かだね。」
真の「どうする?どんなやり方でやっちゃう?」という言外コンタクトに対して悠華は先程の接敵で得られた情報を共有して作戦を練ることにする。
”聖典”からもたらされるオーバーテクノロジーや常識を覆すほどの魔術を扱う桜梅桃橘の四家の干渉が自分たちに対して始まったこと。
橘家の異能部隊が自分を無力化することをためらわない仕掛けをしてきたこと。
…そして「フェアリー・リリック」の構成員それぞれが持つ異能がどういうものであるか。
その解説は現状の様々な思惑が絡まった面倒さを示すモノであったが、真は目を輝かせて聞いていた。
まるで誕生日にお気に入りのぬいぐるみを買ってもらえることを約束してもらえた幼女のごとく。
その様子を見て悠華はまたろくでもない事を画策しているな…と感じ少なからずげんなりしたが、いつも通りの彼女の在り方に安心も抱いていた。
そうだな。難しく考える事の方が相手の術中にはまる要因を生み出しそうだ。
真は確信を得た様子の悠華に対して満足そうに笑みを浮かべ、それを肯定するように頷いた。
悠華もそれを受け取って再び聖堂の奥へ歩みを進める。
自分たちの意思をこれ以上弄ぶことを許さないという決意の元に。
