朝日に輝く「月の石」…わざわざ無理を通して調達し磨いてもらったものだ。
その労力と気苦労に見合う満足が得られて良かったなとしみじみ思っていた。
自分で創り出す幻像では成立できないようなその輝きはより特別な感慨をもたらしてくれる。
涼歌は「取引先」にいつも用意させているリゾートホテルのクラブフロアで珍しく穏やかな時間を過ごしていた。
この仕事を始めて何年になるか…初めてこの仕事をしていてよかったと思える。
まあ支払った対価は少々懐に響いたものの想像以上の充足感は得た。
久々にご満悦な気分でノンアルコールのカクテルを煽るとそれだけで日々の不条理から解放されるようで爽快だ。
この後にぎっちり詰め込んであるスケジュールを見て憂鬱な気分になるのは明日以降に後回しで構わない。
私が今そう決めた。
いつもの関係各位の困り顔を意識の隅に追いやり、傍若無人な算段をまとめて悦に入るのも涼歌の趣味のひとつであった。
しかしそんな思い通りのスケジューリングの中でも最低限の事務処理や決裁事案はこなさないといけないわけで、頭痛の種は尽きない。
でもいつも丸投げに対応してくれる友人や同僚などの関係各位が今回も何とかしてくれるだろう。
涼歌は毎度の面倒ごとを引き受けてくれる面々の顔を思い浮かべて内心に敬礼をする。
君らの働きに感謝は忘れないぞ。
数秒後には意識から消えているだろう敬意を一応思った後、涼歌は思いのほか時間が過ぎていることに気づいた。
豪奢な意匠の壁時計はちょうど正午を示しており今日の打ち合わせの時間になったことを告げている。
どうやら本家に帰って服を選びなおす時間は無いようだ…
涼歌は結局いつものコーディネートで待ち合わせ場所に赴くことにした。
待ち人がこれ以上振り回されず、驚かなくても済むように。
