「この場合感情的ロジックによる選択が大体の要因と思われ…」
「そうじゃないケースの想定はしてあるのですか?そもそもこの事案の不安要素がこれだけというのは考えられない。それに…」
神奈子は目の前で争っている言論戦に露ほどの興味も持てずにげんなりしていた。
ただ自分たちのメンツを通すためだけの論理と実用性皆無の机上の空論が空中戦をしており、何とも聞くに堪えない。
議事録を任された人間の表情に苦悩の色が滲んでいる。
その苦痛度合いに共感しつつも神奈子はとてつもない睡魔に襲われていた。
昨日は無理を押して各地の不都合処理に追われていてほぼ寝ていない状況でこの会議に引っ張りだされているのだ。
にも関わらず論議は言葉遊びで相手の揚げ足を取る為だけの応答が繰り返され、まるで時間を浪費すること自体が尊いと言わんばかりの様相を呈している。
これなら私がオフタイムにお菓子のレシピ考えている時間のほうがどれほど有意義かわからない…
神奈子の意識は空転し続ける会議の場からとっくの昔に離脱していて、週末のティータイムの組み立てに忙しかった。
今回の茶葉とお菓子は最近見つけたあのお店のモノにしよう…皆きっと喜ぶぞ。
ふわふわとした理想のオフタイムの計画は神奈子の心をより浮き立たせている。
別に自分が主体の戦線構築論が議論されていてもどこ吹く風だ。
どうせいつもの丸投げで周りの都合も考えておけよ程度の指令を淡々とこなすだけのこと。
それであるならこの言葉遊びの時間に引っ張り出さなくてもいい筈なのに。
到底口に出せない不満をなだめながらオフタイムの過ごし方に戻ろうとする神奈子に対し、議長は一応参加確認をしておくことにする。
現場の実務を仕切る人間が目に見えて上の空では関係各位に示しがつかないのである。
「…藤宮君、藤宮君。聞いているかね?」
「はい、とても素晴らしいお考えですわ…閣下。」
まるで聞いていない議論でも脳内想定で補完できる程度の話だろう…いつものことだ。
神奈子は今できる最高の笑顔と愛想で対応することにする。
その対応の意味を察した議場の全員が顔を見合わせたのが一番滑稽であり、この場の無意味さをそれぞれが自覚するしかなかった。
そしてこの時の議事録は以後様々な場で鉄板ジョークの種として共有されることになった。
