世の中の事実と非現実は似通った存在と言える。
それらは自分なりの意識的フィルターを通さなければ受け入れづらいという点で一致している。
そしてそれは自覚しているかいないかに関わらない事だ。
予知の魔女が垣間見た未来はその言葉で始まり、彼女の私見によって締めくくられていた。
常人では理解が及ばないその提言は様々な解釈によりこの世に具現化し、それぞれの理想像を現実のモノとしていった。
後に教皇の統制の元で進められていった理想郷の建設計画はその後の国家的栄華の礎となったと伝えられている。
毎夜開かれたであろう舞踏会は華やかな宮廷魔術で彩られ、この繁栄が永劫続くことを誰もが信じていた。
そう、誰もが安泰の未来を描いて日常を過ごしていたのだ。
…この充足感が一夜の夢の如く消えるかもしれないという危惧を無意識の中に閉じ込めて。
通り雨に降られた憂鬱な日。
雨宿りの為に何となく入った店が「当たり」だと少しだけ嬉しくなるものだ。
沙織は気まぐれに選んだ可愛いケーキのセットが予想外に美味しくてご満悦だった。
セットのコーヒーも今の陰鬱に沈んだ心をそっと温めてくれて満足いく時間を与えてくれている。
今日は運がいい日かもしれないな…
浮き立った気分は降り続く雨の景色すらオシャレに見せていた。
こうなったら今日の予定は全部キャンセルしてオフにしよう。
沙織は先程まで自分の意識を占拠したままだった仕事のスケジュールを放り出して優雅なティータイムにふけることを決定した。
たまには自分の時間を確保しないと擦り切れちゃうしね?
ダメ押しの自己肯定の言い訳を思い浮かべてランチメニューを開いた沙織の目の前にいつの間にか人影が現れていた。
あまりにも不自然な気配に沙織は顔を上げて人影の顔を確認する。
育ちの良いお嬢様然とした肩までの髪に生花を思わせる髪飾り。
そしてその印象とは不釣り合いな金と紫がかった黒のオッドアイは沙織に対してまっすぐに視線を注いでいる。
「奇遇ですね…斎木、沙織さん。相席してもいいかしら?」
物怖じせず語りかけてきた少女に見覚えは無い。初対面のはずだ。
沙織の返答を待たずに少女は言葉を続けていく。
「ピュア・サイキッカーの二つ名で現場に名を轟かせる有名な異能者がこんな可愛い女の子なんて驚きましたよ?勇猛果敢に戦場を制圧するデータ上の戦果からは想像もつきませんでした。」
妙な気配を感じ取った沙織は意識を戦闘態勢に移行して対応を考え、会話のイニシアチブを取りに行く。
「私の二つ名を知った上での接触にしてはだいぶ不躾なモノね。アポイントメントを受けた覚えは無いのだけれど?」
沙織のその言葉が放たれた一瞬後、周囲の空気が異質なまでに重くなり能力の発現の余波が迸る。
得体の知れない威圧感がこの場を速やかに支配していく…窒息しそうな息苦しさの帳が下りているのだ。
少女の異能が戦闘態勢状態に移行したことを沙織は感じ取る。
それでも沙織はその計り知れない重圧を愛おしそうに受け止め、少女へ嬉しそうに笑いかけた。
