高校生の翔は最近、お母さんに何かを言われると反抗して「うざい!」と言ってまともに話すことが無くなっていた。
別に家庭に不満があるとかいうとそうでもなかった。
いつもの通学の帰りに電車に乗った。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン
規則的な揺れに疲れていた翔はついつい寝てしまった。
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翔は駅員の声に起こされた。
「お客様、終点です。」
「あっ!すいません。」
慌てて降りた駅は薄暗く、人気の無い無人駅だった。
「おかえりの里・・・。知らない町だ・・・。」
駅の時刻表には始発の記載しか無い。
「しかたがない・・・。」
翔は駅を出ると商店街のような通りを歩いた。
何故か知らないと思っていた町に見覚えがあった。
「確かこの角を曲がったところに駄菓子屋さんがあったはず。」
翔はその角を曲がった。
そこには古びた駄菓子屋があった。
「あっ、こんな感じだった。」
その瞬間、翔の記憶は小学生だった自分に戻った。
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「しょうちゃん、遊ぼうよ~。」
「うん、何して遊ぶ?」
「缶けり!」
しょうちゃんは友だちと缶けりをしていた。
鬼になったしょうちゃんは缶をけられないように、周りに注意を払った。
「カーーーン。」
空き缶のけられた音がした。
「しょうちゃん、周りを見ていないと缶をけられるぞ?」
「おおーそっちからくるかー!」
そこからの記憶は消えていた。
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辺りは白く朝靄が立ち込めていた。
翔は気が付いたら杉の木のある場所に向かって歩いていた。
街はずれのわかれ道にあったその杉の木は青々とした葉を茂らしていた。
翔はあの頃と同じように手に持っていた空き缶を蹴った。
「今度はうまく出来るかなぁ。」
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しょうの記憶は小学生の頃の自分に再び引き戻された。
「また、けってやるぞ!」
「そうはいくか、今度は周りに気を付けるよ。」
遊び疲れると、 しょうは自分の家?に帰った。
家には祖父がいた。
「おかえり、しょうちゃん。疲れたか?将棋せんか?」
そう言って祖父は笑っていた。
しょうちゃんは祖父と将棋の山崩しをした。
「しょうちゃんはうまいなぁ。じいちゃん負けたよ。」
しょうちゃんは夕飯を食べ、薪で沸かしたお風呂に浸かった。
お風呂の柔らかい暖かさはしょうちゃんを深い眠りに誘っていた。
久しぶりにゆったりとした時間を過ごしていた。
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目が覚めた翔は電車に乗っていた。
翔は家に帰った。
「ただいまー。」
翔は玄関に着くと大きな声で言った。
「お帰りなさい。しょう、ニコニコしてどうしたの?」
母は言った。
「おじいちゃんに褒められた。」
と翔はニコッとした。
そうすると、母もニコッとした。
「翔、疲れて電車で寝て夢でも見たんでしょう?」