ここは冬の国。冬の妖精達が暮らし、妖精学校を卒業すると世界中に冬を届けに妖精達が旅立つ。旅立った妖精は10年程すれば冬の国に戻れるので、戻ってくる妖精もいれば、世界のどこかに定着してそのまま暮らす妖精もいる。
今年も学校を卒業した妖精達が旅立つ日がやってきた。
妖精達は皆お揃いの白いふわふわを纏い、校庭に集まって一斉に飛んでいくのが決まりだ。
「う~、緊張するなあ。」
その妖精は今年学校を卒業した中で一番背が小さい女の子。緊張でそわそわしながら旅立ちの時間を待っている。
「緊張してるの?」
「相変わらずですね。」
「ワタちゃん!シロコちゃん!」
女の子のクラスメイトだった友達の女子妖精2人が話しかけてきた。
「だ、だってなんか当日になったら怖くなって…」
「大丈夫だって、あたし達はふんわりと風の吹くままに行けばいいんだよ!」
「そうですよ、学校で習ったとおりに風の皆様に感謝して身を任せてれば大丈夫です。」
「あとは気合い!何でも気合いで突っ込む!」
「ワタさんはまったく…」
「ワタちゃん、いつもそうだね。実習でも危うく焚き火に突っ込むところで、先生に怒られてたよね。」
「あ、あの事はもう大丈夫なのっ!」
3人で楽しく会話をしていると、集合がかけられる。遂に旅立つ時間がきたのだ。
「じゃあね!お互い頑張ろう。」
「落ち着いたら手紙のやり取りをしましょうね。」
「うん、またね。ワタちゃん、シロコちゃん!」
友達と別れ、女の子は言われたとおりに気合を入れた。両手をぐっと力強く握りしめる。
(だいじょうぶ、だいじょうぶ、気合いだ、気合い・・・)
そうこうしているうちに旅立ちの合図が鳴り、両親や家族、先生や友人が見送る中、妖精達は一斉に空へと飛びあがっていく。
(気合い、気合い、気合い・・・)
「そこの子、もうみんな飛んじゃったよ!!」
「え?・・・うわああ!遅れたー!!」
あまりに気合い入れに集中しすぎた女の子は、皆と飛ぶタイミングが遅れてしまい慌てて自分も飛び立った。
「遅れちゃうなんて最悪…」
何とか強めの風に乗れた女の子はスピードを上げて、同じ旅立った妖精の1団らしき集団に合流する。
「おっ、やっときたのかよ。ちびっこ。」
「アンタ、今から良い風に乗れると思ってるの?ちびっこなのに。」
(げっ…ジョロにオナツ…)
集団の中で女の子に絡んできたのは、同じくクラスメイトでいじめっこの双子の男女妖精。学校でもこの2人は何かと女の子をちびっこと呼び、からかってきていた。
「そっちだってまだこんなところにいるじゃない。」
「オレ達はもっと良い風を待ってるんだ。」
「速くて冷たくて、アタシ達が冬を届けるに相応しい場所に行く為にね。」
「あと遠くて、でっけー街があるところだな!」
2人の言葉にカチンと頭にきた女の子は、ついこう言ってしまう。
「何よ、私だって遠くて大きい街まで行くもん。負けないんだから!」
そう喋っているうちに強い風が吹き、あまりの風の強さに飛ぶバランスが崩れそうになる集団。だが女の子だけは意地でその風に乗り、あっという間にいじめっこ達と集団を追い越し去っていった。
「ふっふーん、どうよ。私だってやればできるんだから!このままずーっと遠くの大きい街まで行くわよ!」
風のおかげでスピードにも気持にも勢いがついた女の子は、どんどん進む。しかし風もまたどんどん吹いて村も街も超えていってしまった。
「あ、あれ…?風さん!?ウソッ、どこまでいくの!?」
次々に流れていく街々の風景に流石に焦る女の子だが、風は止まるどころか女の子を降ろしてさえくれない。
女の子はどこまでも遠くへ遠くへと風に流されるままになってしまった。