かつての蒼い日記帳62-辿りついた宿命、零れ落ちた運命-

これから始まるのは決して希望溢れる物語ではない…それだけはわかってもらえるかな。

執務室に充満した淀んだ空気がより重くなった気がした。

濃い目に淹れてあったコーヒーの香りがせめてもの気休めである。

私は昨夜考えてあった理想通りの想定問答が全て無駄になったことを認めて憂鬱な気分になった。

彼の持つ権限と人材を含めたリソースがあってこそ実現可能な今回の事業プラン。

この地における魔導絡みの利権や決裁権を丸ごと抱えられるこの提案は彼にとっても渡りに船の双方にとって不満の出る余地の無いモノだった筈。

この最終的な契約の場において異議が出るとは思ってもみなかったのだ。

しかし彼は自分の持つ資産を死蔵させる手は無いと踏んでこの日取りに決めてあった。

彼の所有するあまりにも膨大な知識と日常の中では危険すぎる禁忌術式の数々は誰にとっても手を焼く危機的破綻要因でしかなかった。

関わる者達全てに災厄を等しくもたらすその資産は彼に滅亡の運命を導く死神そのもの…それ故に虐げられた彼の自尊心と魂はすり減ってあとは緩慢な死を待つだけだった。

その確定した破滅の運命を避けられる道標として提案したこのプランに何の支障も無い。

むしろ感謝されるべき私に対して改めて釘を刺しておく意味は何なのか?

私は彼の哀れみを浮かべている瞳に疑問を感じながらもこれからの日常の希望的観測を再度言い含める。

それが自らを絶望の深淵に沈める致命的悪手だと気付く余裕が無かったこと。

その一点が私の平穏な日常を途絶させる最大の要因であった。

「なるほどウチのボスはあんな簡単なお使いすらしくじったってわけね。これからあの土地がどうなるかは神のみぞ知るというわけかな?」

アリスは棒付きの球形キャンディを咥えて共有された情報を斜め読みし、書類の束を部下に投げた。

どぎつい甘さのキャンディの糖分が幾分か気を紛らわせてくれている。

普段なら皆苛立ちオーラ全開で人を寄せ付けなくなるこの忙しい時期に大型破綻要因の追加でてんてこ舞いだ。

ギスギスした空気がより肌に感じられて切ない気分である。

それにしても異能者対応が主な業務であるウチの組織に魔導関連事案が舞い込んだのはいささか不自然だな。

妙な違和感を感じたアリスは自分のデバイスで今回のクライアント情報を探ってみてその元がヒットする。

”欧州魔導界のお目付け役であるミセス・サマーフィールド失踪”の記事。

その息子のひとりであるヴィオラ・サマーフィールド氏は確か他の子供たちより魔導適性が著しく高い故に様々な禁忌術式を扱えることで幽閉されていた事が知られている。

ミセスによる抑止力が各方面から消えたことでヴィオラ氏も動き出したのだろう。

あわよくば欧州魔導界へのコネクションも得られるということでハイエナもだいぶ群がったはず。

…これは想像以上の修羅場が待っているな。

アリスは舐めていた球状キャンディを嚙み砕いて飲み込むと上着を手にして外部の状況確認に乗り出す。

これからの新たな人生日記の1ページが静かにめくられていった。

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しなちー

アニメやライトノベルを1990年代から没頭している古参オタクです。 様々な作品から感じた事や個人的創作論、私なりの世界観を舞台としたショートストーリーなどを発信していきたいと思います! よろしくお願いします!

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