「番外編 花弁の行方」#10

長い長い話が終わって

俺たちはしばらく

黙り込んでしまう

どれくらいたっただろう?

1時間は過ぎたかな

あらかじめ頼んでおいた

寿司が届き俺たち全員が

家族として初めて食べる食事

「じゃあ、改めて私達家族が

最初に食べる食事よ!」

「気軽にパパと呼んでくれていいよ、セイラちゃん」

「私のことも、セイラって呼んで?」

蓋を手に取り呼び方から

始める最初の親子関係

普通の親子じゃない

私もセイラちゃんも

妹や姉になったわけじゃない

それでも、この光景を

みてて拒否反応はないし

こうして歪な親子関係は始まった。

ーーーーーーーーーー

食事が終わって

私とセイラちゃんは同室へ

パパ達はリビングへ

「あれどう思う?」

「相当、無理してると思う」

私達は、子供ながら

パパ達が

心の底から笑ってない

笑顔で私達を、心配させない

ための演技ではないか?

私達はそう思った。

2人が本物の夫婦にならなくても

不安を取り除きたい………

そのために、私ができること

‘記憶を取り戻す’こと

パパのこと、知ってるようで

知らない。セイラちゃんのことも

どうやったら思い出せる?

笑い方を忘れた私にもできること

それは思い出すこと……

私は唸って頭を使う……

『約束だよ!』

脳裏に届く聞き覚えのある

友達の声

その声は明るく笑っていた。

『何があってもエマちゃんと

私は友達だからね!!

約束だよ!』

その暖かな光景を

私はみたことがある。

あの日、公園で………

「うっ……」

あの日のことを思い出そうと

すると頭が痛くなる。

それでも負けない、いま

何か掴みそうなの…なにか

私が生きた証、記憶、道しるべ…

「大丈夫?エマちゃん

ママ達呼んでこようか?」

「………大丈夫」

「え、エマ………ちゃん?」

「全部思い出したの」

私の頭のなかに

いままでの記憶が浮かんだ。

人物、風景、何もかも…

私は思い出したの、すべてを…。

「パパ…お待たせ」

俺は泣いた。

久しぶりに娘から

パパと呼ばれたこと

俺を呼ぶ娘は笑っていた。

久しぶりにみた、娘の笑顔

確認のため俺は娘と

俺しかわからない合言葉を

示したこれがあっていれば

記憶が戻ったと信じられる。

「待ってたよ。エマ」

「ただいま」

紛れもなくエマだ。

記憶が戻って1週間

すぐには病院には行かず

記憶を取り戻そうとしてくれた

セイラちゃん一家と

お祝いをすることに

「長かったな」

遠くを見つめる

ここ半年の寿命が削られ

焦燥感と喪失感に押し寄せられて

行き詰まっていたが

いままで、これほど

生きていて良かったと思うことは

もうないだろう

「えー完全に戻ってますね。

秘訣はありましたか?」

お泊まり会が延びたが

エマが完全に記憶を取り戻した

ことで過去話をする切っ掛けが

ありそこでセイラちゃんとの

絆もより深まった。

「私がみんなのこと思い出したいって思ったの」

医者に自分の意見を言う

エマは成長したように感じた。

それからは、フラッシュバック

しないようニュースを

みなくなり、当分は

セイラちゃんとだけ遊び

学校にはまだ登校させてはいない

がユメノ先生には話した。

「良かった、本当に良かった」

電話で話したユメノ先生は

涙声だった。

エマのことで、心配をかけた

人たちには今度お礼を

するつもりだ。

#10…「みんなにありがとう」

おわり

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水樹

最初に絵を描き始めたのは小学生の頃でした。 それから、自分の世界観を文字におこしたり、絵にするのが趣味になっています!!

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