私は、どうしたいのか分からない。
何もない野原の上で、百合の花を握りしめる事しか出来ない。
そして、目の前にはさっきまで女性「だった」ものが転がっている。
これは私がやったの?となぜか自分に問いただす。
この場には私一人しかいないし、百合の花を握りしめる手には生暖かい液体の感覚があるのだから当たり前だ。
じゃあ、どうやって?
私はどうやって彼女を?
そもそも、どうして?動機は?
思い出そうとしても、なかなか思い出せない。
考えないように何かに遮断されてる感覚さえ感じる。
遠くから誰かが息を切らしながら私に近づいてくるのが聞こえてくる。
振り向くのが怖い。
息を切らしながら走ってきた男は女性「だった」ものを見ると絶句し、私の事を睨みつける。当たり前だ。この光景を見れば、誰だって私がやったと思う。
男は私の両肩を力強く掴み、何かを訴えている。
男の台詞はノイズと認識しているのだろうか?
何を言っているのかよく分からないが、多分良い内容ではないだろう。睨みつけながら言っているのだ、そりゃあそうだ。
だが、この男はあの女とどういう関係だったんだ?それに、私とこの男の関係は何なんだ?
知り合い?友人?親友?信用できる人?愛人…?
何なんだろう…この感覚…。凄く…鬱陶しい…。
この男にとって、この女はどういう意味だったんだ?
知り合い?友人?親友?信用できる人?愛人…?
結局、何なのかわからないがなぜか両方とも愛人で思考が止まる。
この女と男は愛人?いや、違う。私はそう思わない。いや、私がそう思ってないだけ?そう思いたくないだけ?
…痛い。突然左の頬に痛みを感じる。
おそらく、話を聞かないで呆然としてる私の事が気に食わず、男が叩いたのだろう。
はあ…そうか…、そういう事か…。私がやった事は、「間違い」だったんだ。
私はこうすれば「正解」だと思った。だが、違ったらしい。
…うるさい。もう貴方の話は聞きたくない…。
しつこい…。離して…。こういう時に限って何か言うくせに…。触らないで…。私の努力を無駄にしないで…。
解放されたい…。
なら…この男を、女と一緒にしてやればいいんだ…。
私は解放された。男は女と一緒に横になっている。
本当なら悲しいはずなのに、謎の高揚感がある。
やった。これでいいんだ。最初からこうすればよかったんだ。
手についた生暖かい液体を舐めとる。
美味しい…。不思議な感覚だ。普通なら美味しくないはずなのに、なぜか美味しく感じる。
味も少し違う感じがする。甘味が強いのが混じっている。もっと味わいたい。私の手に付いているのだけでは足りない。
やってしまった…。私は本能に負けてしまった。目の前にご馳走があるのだから仕方のない事だろう。
味わう毎に私が私じゃなくなっていく感覚、あの男と女は何だったのかが脳裏にじわじわと染み込んでくる。
そうだ、私は男に「最初だけ」大切にされていたのだ。だが、女がやってきてそれを奪った。
これでいい。遅かっただけだ。
「ねえ、覚えてる?貴方が私に初めてくれたプレゼント。綺麗な百合の花だったよね…。汚れちゃったけど、大切にするね」
私は汚れで黒く汚れた百合の花を抱え、笑顔で男に告げた。
もちろん返答はない。だが、それでもいい。彼はずっと私の中にいる。
どんな形であれ、「中に」いる。離れられない。離さない。一生。
ずっと、離さない…。
アイキャッチ元イラスト(一部リメイク)→https://no-value.jp/illustration/29255/