ピンチはチャンスである
連載第1回目でいきなりつまづいてしまった。知ってほしいことが多すぎて、あれこれ書き散らしているうちに、自分でも何がいいたいのかわからない文章しかできあがらなくなってしまったのだ。どうするんだこれ。永遠に初日が始まらないまま、novalue場所は、幻と消えてしまうのか…
なかば諦めかけていた4月下旬、私は大変なことに気が付いてしまった。そう、2026年・大相撲五月場所(通称・夏場所)の初日まで、残すところ2週間を切っていたのである!
私がこの連載を書きたかったのは、偶然にテレビに映った一番だけでもいいから、相撲を見てくれる人が、ひとりでも増えてほしい…という、ささやかだが切実な願いからであった。そのことを思い出したとき、一筋の光明が差した。とにかく、来る五月場所(※注:記事公開時点では既に開催中である)、「目の前の1番、何を見たらいい?」―それを書かなきゃ!
もちろん、「ここを見て!」ということはたくさんあり、それゆえに私は一場所分…つまり、15回分の連載を書こうと、軽率に決心することができたのである。そして何から書いたらよいのか、そのあまりの広大さ、深遠さに頭を抱えることになったのである。が、今、目の前にいる、相撲なんにもわかんないッスけど、今度やるならチラ見くらいしてみたいッス、というあなたに伝えるなら、これだ。
相撲の見どころ、それは「重心の崩しあい」なんだ!!
初めて相撲を見た人は、もちろん、異世界といってもいいほどの会場の雰囲気や、力士のいでたちに目がいくとは思うのだが…あえて「相撲ってどこが面白いの?」=「相撲って何を見たらいいの?」と感じているあなたに、まずはそれを伝えたい。いくら見た目が派手だからといっても、あまりにも一瞬で、あまつさえ、あっけないとすら思われてしまうかもしれない相撲という競技は、「何を見るか」がわからなければ、似たようなこと(しかも一瞬)の繰り返し(しかもやたら間がある)で、面白くないだろうと思うからだ。
重心を制するものが勝負を制する?
では、相撲の取組(=対戦)に「重心の崩しあい」を見よ、とはいかなることなのか。まずは、相撲の勝負を決めるのがまさに「重心の崩しあい」であるということを知っていただかないといけない。単なる力比べではないのだ。
みなさんは、相撲の勝敗を決するルールそのものはご存じかと思う。かんたんに言えば「土俵に足の裏以外がついたら負け。土俵の外に出たら負け」である。言い換えると「相手を土俵上に倒せば勝ち。土俵の外に出しても勝ち」。ほんの少しでも、手が土俵にかすったらその時点で負けである。何なら、土俵上でうっかり足を滑らせて転んでも負けである。一瞬たりとも、足の裏以外を土俵上についてはいけないのである。他の格闘技のようにカウントをとることもない。投げられても土俵上に、立ちつづけなくちゃいけない。押し出されそうでも土俵上に、足を残し続けなければ。
それが可能である状態は、「自分で自分の身体のバランスを制御できる状態」と言えると思う。だから勝つためには、相手のバランスを崩す。相手の身体のバランスの主導権を自分が握る。投げをうって、突いて、バランスを崩す。だから相撲という無差別級の格闘技では、小兵(身長170cm前後の比較的小さな力士)が2m近い巨大な力士に勝つことができるのだ。
バランスを崩すという状態は、「身体の重心が、もはや自分の力ではこらえきれないほどに移動してしまっている状態」だと言えないだろうか。走っている電車が止まったとき、うっかり進行方向によろめいて転んでしまったことはないだろうか。私は常に寝不足で電車通学してたので、ありますよ。ひ弱ですし。慣性の法則をなんとなく思い出していただこう。電車は止まったのに、自分には電車と同じ速度で移動していた力が働いているので、重心がぐらっと移動して、寝不足の私の場合は自分の力でこらえきれずに吹っ飛んでしまう。バランスを制するには重心を制さなければならない。自分が負けないためにも、相手に勝つためにもである。
実際、力士はどうやって重心を崩してるの?「わかった気」になる、「知ったか」にわかファン渾身の語りを聴け
とはいえ、初めて相撲の対戦を見る人にとっては、まだ相撲の対戦のどこに「重心の崩しあい」を見ていいのかまったくわからないと思う。相手の重心を崩すために、相撲には実に色々な技術があり、一瞬に見える勝負の間にも、お互いに技を出し合っている。が、初心者に毛が生えた程度の私には、とても「説明」「解説」などということは、できません!!恐れ多すぎる!!なんでこんな難しいテーマで書こうとしたんだろう。
なのでここでは、初心者でも取組を見ていて「ここだ」と思える部分について、みなさまに「語りかけて」みたいと思います。いいですか、いまあなたは、チェーン店のカフェで、いつの間にか相撲ファンになっていた友達とお茶をしています。頭の中に、目の前にいる、超〜無責任で知ったかぶりのにわか相撲ファンを思い描いてくださいね。詳しい好角家のみなさん、変なところがあったら教えてください。
ポイント① まずは立合い!相手より「低く当たれ」!
相撲はねえ、まずは「立合い」よ。「立合い」っていうのは…「はっけよい!」の後、力士同士がぶつかるでしょ。それのこと。
相撲中継とか見てると、「低く当たる」「立合いが低い」って言葉が解説の親方からよく出てくるのよ。相撲は「相手より低く当たる」と強いんだよ。「下から攻める」みたいな言葉もあるけどね。身体を丸めたり、かがんだりして前傾姿勢をつくって、相手より自分の重心を低くするんだよね。立合いはもちろんだけど、そのまま前傾姿勢を維持すると自分にとって有利な戦いに持ち込めるんだよね。というのも、自分より重心が高い相手は軽くなるらしい。これってたぶん、おんぶするときに自分がいったんしゃがむのと一緒かなって思う。立ったまま人をおぶろうとしたら、めちゃくちゃ力必要っていうか…無理だよね。だっこするほうがマシ。でも、子供でもない限り、だっこって重くてキツいでしょ。相手より低くなって、相手を自分の上にのせるおんぶのほうが楽じゃない?キツいとか楽だとかっていうのはもちろん自分のことね。攻める力士もそうなのよ。
で、とりあえず!まず最初、対戦する力士同士が、どうぶつかり合うかを見てみてほしいわけ。まあ、立合いってとにかくものすごいスピードと迫力に圧倒されて、何が起こっているかわかりにくいかもしれないけど…ちょっと目が慣れるまではね。私もよく見逃しちゃうし。でも、立合いはこっちも集中して、要チェックよ。低い前傾姿勢で当たって、懐にもぐりこむ!これが一つの理想形だと思うのよ。もちろん、違う形もあるけどね。低い立合いが得意な力士はね、もはや鋭角でぶつかってくからね。三角定規のあの一番鋭いとこばりの鋭角よ。しかも、なんぼ投げとかいなしを食らっても前傾姿勢を絶対に崩さないとかね。あとは、ものすごいスピードで頭からぶちかましてそのまま一気に土俵際まで持っていっちゃうとかね。まあ〜、「低く当たる」っていうのは、言うのは簡単なようでなかなか出来ないもんなんだよ。足腰とか体幹をかなり鍛えてるだろうね。あとは稽古、稽古、稽古…それでも、できないときはできないんだ。稽古場でできてることが本番でできない…なんてことは、コンディションとかもろもろの事情であるものなんよ。
ポイント② 技で相手の重心を崩して戦え!
それでね、戦いの中で、いかに相手の重心を崩すかなんだけど。その方法を、かなりざっくりと「投げ」「突き」に分けてみようと思うんだよ。まあ、私がそうやって見てるからなんだけどさ。
まずは「投げ」なんだけどね。決まり手で「下手投げ」とか「小手投げ」とかあるじゃん?今は決まり手の話じゃなくて、相手のまわしをつかんだり、相手の身体の一部をとらえてブンッ!と振るのがあるじゃん?それそのものの話って思ってよ。なんか「相撲」って聞いてパッと思い浮かぶ場面にさ、力士がまわしをつかんでウーンって組み合ってるとこあるっしょ?あれさあ、見ててどう思う?え、お互いまあまあ重いじゃん。力も同じくらいだからこうなってんでしょ?これ、どうすんの?終わるの?ってなんない?
ここで出すのが「投げ」なんよ。組んだ相手をブンッと振って、重心が崩れたところを攻める。これね、相撲って速いから気づかないかもしんないけど、スロー映像がもっかい流れるから、そんときわかるかも。揺すってるって感じなのかな。別に組み合ってなくても、最初からまわしを狙って投げで崩してから攻めるってタイプの人も確かいるよ。
これは多分タイミングがミソだと思うのね。相手も投げを待ってて、思惑通りに投げを打っちゃうと、自分が崩れたところを相手が利用して攻め返してくるからね。結構諸刃の剣なんすよ。
そんで今度は「突き」なんだけどさ。言い忘れてたんだけど、まわしをつかんで組み合って戦う相撲を「四つ相撲」って言うのね。逆に、まわしにこだわらないで、突いたり押したりして戦うのは「突き押し相撲」なの。力士の戦い方って、だいたいこのどっちか。たまに器用な人もいて、どっちもやる人もいるんだけどね。
「突き」っていうのは、なんていうか…「いいところ」に「いい感じ」で突っ張ることで相手の重心を崩す…みたいなところあるんだよ。「いいところ」っていうのは、たとえば肩口とかかなあ。ちょっといい?私、あなたの右肩ちょっと押してみるよ。ほら、グラッとするしょ?これ、ガチでやられたらコケるっしょ。あとは、やっぱり胸やお腹の真ん中は、言いすぎかもだけど、重心そのものって感じじゃん。人間の身体の芯だよね。今度はちょっと、胸のど真ん中押してみていい?押すよ?どう?あっ、うわ、これ以上はヤバいね。ひっくり返っちゃったらシャレになんないもんね。あのさー、私だけかもしんないけど、オフィスチェア的なのに座ってて、あー疲れたーっつって背もたれにぐいーってもたれるときあるじゃん。あれさ、やり過ぎてたまに真後ろにイスごとひっくり返っちゃうときあんの。ない?いや絶対あるっしょ。こないだひっくり返ったときに思ったんだけどさ、真後ろに倒れるときって、マジでなんもできないんだわ。うわー後ろに倒れてるー!ってわかってても、なんもできないの。これが横や斜めに倒れる分には、片足ふんばったり、どっか掴まったりして、どうにかまだリカバリーできるんだよなあ。他には首とかもいいよ。これは「突き」というより「押し」なのかなあ。「喉輪」って言って、喉をグーッと手で押すの。これはもう、身体が反っちゃうよね。
で、「いい感じ」って言ったじゃん?これがねえ、「突き」の難しさなんだと思うんだよ。たとえば肩口を突くってなると…肩口っつっても、それなりに範囲ってものがあるじゃない。もし、肩の上のほうの端っことか突いても、あんまり力が伝わんないんだよねえ。最悪、すっぽ抜けるからね。胸とかお腹もそう、芯をとらえないと。胸なら両胸の真ん中とかでもいいのかなあ。とにかく「突き」は自分の重心を手で伝えてなんぼだから!そういうのを突きが重いって言うんだけど。あとは突く回数はやっぱり多いほうがいいよ。でも、1発1発が重いことが前提だね。弱々しくペチペチペチペチ突っ張ったって相手は動かないからね。まあ、言葉で言うのは簡単だけどさ…突きたいところを突きたいように突くのは、これがなかなか難しいんだよ。本当にさ…。
ごめん、話長くなったわ。ほんとオタクはすーぐ話が長くなる。ちょっとお花摘んできまーす。
つまり、何が言いたいかというと
さて、脳内お茶会から戻ってまいりました。こんなふうに書くと、びっくりするほど書きやすいものだ。読みやすいかはわからないけど。
さきほどの会話から、さらに簡潔に注目ポイントをまとめてみた。
その①!立合い、より低く当たれた力士はどっちだ!
その②!まわしをとった力士は投げを打って相手を崩すことができたのか!
その③!まわしにこだわらず突っ張った力士も相手を崩すことができたのか!
そして、これらの力士は、勝つことができたのか!?
まだまだひよっこで不勉強な私が、どうしたら「勝てるか」=「相手のバランスを崩せるか」=「相手の重心を崩せるか」について、素人なりに考えてみた結果を、かなり端的に表してみた。こんな難しい、合っているかもわからない話を思い切って取り上げたのは、とにかく、なぜその力士が勝てたのかわからないと相撲は面白くないだろうと思ったからである。そしてそれこそが、私の心をつかんだ相撲の魅力だからである。
私は中学生の時分に一瞬だけ合気道を習ってからずっと、「格闘」的なものに関して、単純なパワー勝負ではなく、相手の力や勢いを利用したり、バランスを崩したり、自分が有利な体勢をとったりすることで、自分のフィジカルが劣っていたとしても、勝負を制することができる…そんなことになぜか興味があった。そんなことばかり考えてしまうのは戦闘民族の末裔ゆえの性であろうか。いつ襲撃に遭っても、こんな非力な自分がどうしたら負けずに切り抜けられるだろうかと、常に危機感を持ち、イメージトレーニングを欠かさずに生きてきたのだ。
だから、相撲を初めて見たときに、パワーだけではない「身体を使う技術」の応酬に、なんて面白いのだろう!と、一瞬でフォーリンラブしてしまったのだ。相撲のことは他に何も、本当に何も知らなかったが、「重心の崩しあい」、たったそれだけのことが私を強く惹きつけたのである。
それゆえに、連載の初回にしてこんなマニアックなことを、しかもあんまりよくわかってないにも関わらず書きはじめてしまったのだ。引くに引けずに(相撲だけに)書き切ってしまったが、正直よくわからなかったという方のほうが多いと思う。何か少しでも読者の方の心に引っ掛かり、それが相撲の勝負を味わう一助になれば、無茶をやってのけた甲斐もあろう。そして、かくのごとき反省から、次回はもっととっつきやすいテーマを扱うつもりなので、見棄てずにおいていただけると大変嬉しく思う。
さて、執筆に時間がかかりすぎたので、大相撲五月場所は、既に始まっております!ぜひ、夕方4時〜6時ごろに、ちょっとテレビをつけてみてください。懇願します。相撲をどうぞよろしくお願いいたします。次回、「2日目」は名古屋場所(七月場所)に合わせて公開予定です。素揚げのセミを食べたくなる夏まっただなかに、またお会いしましょう。
