「秘密のフレーズ」にどう反応するか?で分かる!
あるパティシエ様から聞いた、「出来るパティシエ」かそうでないかが簡単に分かる、「秘密のフレーズ」を特別にご紹介しましょう。
「カスタードプリンとクッキーは簡単に作れますよね?」
実は、この質問フレーズに「否定的な反応」を示すパティシエ様こそが、「出来るパティシエ」様なのだそうです。
ある程度お菓子を作りこんだお人なら、この2つのお菓子が「怖いもの」と知っているから、とおっしゃっておられました。
カスタードプリンとクッキーは、一見すると簡単に作れるように思えるお菓子ですが、きちんと美味しく作ろうと思うと、とても奥が深い、難しいお菓子だからです。ですから、上のフレーズ「カスタードプリンとクッキーは簡単に作れますよね?」を軽く見ないお方が、「できるパティシエ様」なのです。
カスタードプリンの大きな2つの課題
まず、「カスタードプリン」というのは、簡単そうに見えますが、課題があるお菓子になります。大きく分けると、2つの課題があります。
第1の課題「生地」の配合
第1に、生地の配合をどうするか、という課題が大きく立ちはだかります。
・卵黄と卵白の配合のバランスを取って、どのくらいの固さのプリンにするか?
とろけるように柔らかいプリンから、しっかり固めのプリンまで、様々なバリエーションがあり、どの固さを自分やお客様が求めるかによって、卵黄と卵白、もしくは全卵の配合の具合が変わります。大まかに言って、卵の量が増えると固いプリンになっていく傾向があります。
・甘味の種類やバランスはどうするか?
一口に「プリンの甘味をつけるもの」と言いましても、はちみつ、黒砂糖、カラメル、白砂糖、グラニュー糖等があります。これらを、どのようなバランスで配合して、自分の理想のプリンの甘さにするのか、という問題にぶつかります。精製した砂糖はキレのある甘さ、粗糖を使うと生成りの甘さという風情になります。
・配合する乳類はどうするか?
牛乳のみにするか、若しくは生クリームやクリームチーズ、コンデンスミルク等を配合して、バリエーションを作っていきます。場合によっては、果汁を使う事もあります。チョコレートや紅茶液を入れる場合もあります。これらの配合によって、味のバランスも変わってまいります。
・カラメルをどうするか?
砂糖を焦がして作るカラメルソースの熱の入れ具合で、苦みと甘味のバランスが決まります。そのプリンの生地に合わせて、焦がし具合を変える必要があります。焦がし具合が深いほど、苦いカラメルになります。
第1の課題だけで、これらの4つを勘案しなければなりません。
カスタードプリンの第2の課題「焼き加減」
次に、この課題を自分なりに解決し、理想の配合を見つけたとしても、卵を入れたお菓子である為、「焼き加減」という第2の大きな課題があります。
卵料理を作った事がある人は、火加減が大事で、熱の通り具合で味と固さが決まるという事はご存じでしょう。
カスタードプリンにも同じ事が言えます。プリンの場合は、出来るだけゆっくりと温度を上げて卵の成分を固めていく事が大事になってまいります。低温のオーブンで、じっくりと湯煎焼きする必要があるのです。
しかし、商業ベースでカスタードプリンを作ると、オーブンの電気代等のコスト問題、かかる時間の問題もあります。理想のカスタードプリンをオーブンで効果的に作るのはなかなかコツを要する難しい事です。また、蒸し器で作ると、火加減と時間を間違えるとすぐにスが入って、もっと難しくなります。つまり、あばたのあるプリンになります。
故に、あまり慣れていないお方の場合は、いっその事鍋に水を張って水の状態からごく弱火で湯煎すると失敗が少なく、コストも良いかもしれない、と思います。(その場合、なべ底に布巾を敷いて水を入れるのを忘れないでください。火が通り過ぎてしまいます。)
カスタードプリンのコストパフォーマンス
そのうえ、カスタードプリンというのは焼いたら膨らむ、というものではないので、お菓子としての歩留まりが悪く(1個作るには1個分の生地が要ります。ケーキの場合は、1個作るのに型の8分目程度の生地で1個できます。)、
病院の近くのお菓子店様等は必ずおいておかないといけないお菓子(ご病気の方でも食べやすいお菓子だからです。)ですが、コストパフォーマンスは案外に悪い上、味や舌ざわりのごまかしもきかないので、お菓子のプロでものの分かったお方は、口を揃えて「カスタードプリンは気が抜けない」とおっしゃるものです。
実は、私もカスタードプリンを自分好みに「美味しく」作りたいと思った時には、「時間と気合」が必要になるので、あまりたびたびは作れずにおります。なぜかと言うと、カスタードプリンの生地を作り、冷蔵庫で一晩冷やし、カラメルを入れた型に流して、余熱していないオーブンで1時間以上焼く、という時間と手間がかかる方法を採用して、自分がある程度納得がいくカスタードプリンを作る主義だからです。
一時、「窯焼きプリン」と言う表面が焦げたカスタードプリンが流行った時期がありましたが、あれはゼラチンで固めたケミカルプリン(ゼラチンで固めたカスタードプリンのことです。)ではないと証明するための膜のようなもので、アルミホイルを1枚プリン型の上にかけて湯煎焼きすれば、そういうものは出来ないのです。
本当はコワイクッキーの配合と作り方
そして次に、「クッキー」も、手軽に作ろうと思えば手軽に出来るものですが、こちらもプロが真面目に作ると気が抜けない、難しいお菓子なのです。
クッキーの配合はよく考えると難しい
クッキーも、生地の配合によって、出来上がったクッキーの歯ざわりや口溶け、中に入れるドライフルーツやチョコレートやナッツの味のバランス、エッセンス類の香り、等の様々な要素が絡み合って、とても複雑なものです。
簡単に思えますが、クッキー生地の配合というのは、真面目に考えるととても難しいのです。
大体、小麦粉、バター、砂糖、卵が主な材料になる場合が多いのですが、大きな課題としては、小麦のグルテン(タンパク質)をいかに粘り気を出さずに制御できるか、という処が肝要になってまいります。
さっくり混ぜてグルテンを出さない、という方法もありますし、徹底的に捏ねてグルテンをずたずたに切ってしまい、粘りを断つ、という流儀もあります。
こちらのグルテンを練って切る方法は、クッキー生地が出来上がるまでにかなり疲れます。
また、オーブンでのクッキーの焼き加減を見るのも、厳密に言えば難しいものです。
クッキーを焼くときの計算
クッキーは、オーブンから出した段階では柔らかく、冷えた段階で希望の固さになる、というものなので、計算して焼かないといけないのです。
実際、私もまだ、満足のいくクッキーが作れた事がありません。自分が納得出来る配合も、焼き具合もまだ見極めきれていない状況になります。
そのうえ、プロが店でクッキーを販売する場合、ここで手を抜いてあまり美味しくないクッキーや、賞味期限が近付いて味が落ちたクッキー等(皆さまが思っているより、クッキーを美味しく食べられる時間は短いのです。常温では3日から5日が限界です。)を並べておくと、小さい菓子で気軽に購入されるもの故に、「クッキーが美味しくなかったから、ケーキも美味しくないかもしれない。」というお客様の判断に即座に繋がりかねないのです。
知り合いのパティシエ様も、「クッキーは難しくて怖い」とたまにおっしゃっておられます。
分かっている人は「簡単」とは言わないお菓子たち
こういう本当は「難しくて怖い」お菓子達を、「簡単ですね。」と言うお人は、経験不足か、理解が足りていないかのどちらかでしょう。
味覚の感性がプロではない私ですら、カスタードプリンとクッキーで難儀している状況なのですから、プロのパティシエ様達は、この2つのお菓子で日々苦労しなら、他の商品のケーキも毎日作っておられると思います。
プロの方々が日々頑張って作ってくださったものを、感謝しながら楽しく心穏やかに賞味させて頂きたいものです。
参考にしたURL
ウィキペディア
マカロニ