目を開ける。どうやらまた、死に損ねてしまったようだ。
……時はおそらく夕暮れ近く、場所は見慣れたスラム街。とはいえ私はここの住民、というわけではなく、パトロールに来ていただけの保安施設職員で、と。
そこまで考えてやっと、意識が体にフィットする。どこにも痛みはないものの、体が重くて仕方ない。どうしてだろうと視線を巡らせ——そこで初めて、私は私の上に倒れている人物の存在に気付いた。
「……まさか、死んでますか?」
「い、いやそこはせめて、生きてますかって尋ねてほしいかな……」
言いながらも、声のトーンや体重からして男であろう人物は微動だにしない。というかなんで、私の上にいるんだお前は。周りには瓦礫の類などないし、他の人間が倒れているわけでもないというのに。
……しかしそもそも、どうしてこんなことになっているんだ?
「ああごめん、重かったよね。もうどけるよ。
……ふう、君の方こそ無事だったかい?」
だがそこで、起き上がった彼の姿を初めて直視する。薄暗い中でもなお、輝くように白い……なんというか、凄まじいまでの美人さんだった。
——とにかく長い白髪の下、青い瞳が眠そうに伏せられた。いっそ儚げな雰囲気すら感じる白い肌と、はっきり浮いた喉仏が妙にアンバランスだ。それが逆に、目が離せないほどの妖しさを引き立てているとも言う。
「あ、見とれてるね。分かるよ、僕ってば美形だからね」
「それは確かにそう、ですけど……怪我、してるじゃないですか……」
だが間違いなく、今見るべきはそこじゃない。服まで真っ白なせいであまりにも痛々しく——その腹部に、赤い染みが広がっている。
「そこまで、深刻じゃないから……落ち着いてよ、僕は死なない」
「とは、言いますけど……」
ぬるりと漂う血臭や土埃で汚れた顔を見るに、あまり状況はよくなさそうだ。だが待て、怪我? 何か覚えが、ある。
そこでようやく、私は先ほど何が起こっていたのかを思い出した。組織を挙げて追っていた、青年の姿をした神を殺したばかりなのだ、と。
足元に目をやれば、そこには彼の亡骸である赤い砂が散乱している。だが彼はまったくの丸腰だったわけで、そうなると私を撃とうとした相手は誰なのか推測すらできない。せめて邪魔されることなく撃たれたのが私だったなら、相手の姿を見ることもできたかもしれないのに。