……窓ガラス越しの街並みが、音も立てずに遠くなる。ついでに目の焦点をずらし、鏡代わりに自分を見つめてみる。地味で華奢な、黒髪の少女だった。
機械のようだと、何を見ているのか分からないと言われ、時に狂気にも例えられる赤い瞳。この組織の制服以外をほぼ着ないせいで、飾り気のない手足。短い髪は手入れを怠りボサボサで、どこをどう見てもつまらない人間だけれど、生きる機会を与えられてしまった。
「……せっかく何も分からないうちに、死ねると思ったのに」
聞く者はいない。だってそういう生き方を選んできた。
そして今も、狭い空間の中でひとり、ひっそり息をするこの瞬間が気楽だと思う。耳が詰まるこの上昇感さえ、世界の喧騒が遠ざかるようで嫌いじゃない。
ああでも、と腰のポーチに目をやる。小瓶の中の砂にまだ意思があるとしたら、今もそこで私や、組織への怨嗟をつのらせていることだろう。もちろん彼らの事情など知ったことではないし、申し訳ないなどとは微塵も思っていないが。
「自業、自得だ。それこそお前たちは、生きていること自体……」
呟く言葉は行き先を失い、苦い感触だけを残して空気へと消える。奥歯を強く噛み締めて、私はそっと目を伏せた。
そうだ、何もかも神が悪いのだ。私が全てを失う原因となったくせに、私が銃を向ければ被害者のように振る舞う「神」という存在が、私はこの世界の何よりも嫌いだった。