「先ほど、データベースにある最後の神を殺害することに成功しました。砂は、ここに」
少しだけ、声が震えるのを自覚しながら、差し出したそれを見つめる瞳は黄金。やがてゆっくりと私に移った視線は、全く興味のないものを見るそれで。胸の奥がちくりと痛むけれど、いつものことだからと声を振り絞った。
「それで、父さ……」
「確認した。本来なら下がれ、というところだが……お前、襲撃された挙句民間人を巻き込んだそうだな」
……ああ、やはりか。
そう言われるだろう、という確信はあった。何より私が連れて来たのだ。それよりもただ、言いたかったことを遮られたのが苦しい。翡翠の髪をした彼はただ、冷え切った執務室の空気と同じくらい鋭く私を見据えている。
「『太陽の聖櫃』における、決まりを三つ言ってみろ」
「……『人のため、何よりもまず人のため』、『邪悪なる神のいない地で』……『いつか太陽を取り戻すため』」
「分かっているなら、なぜ人間を巻き込んだ。下手をすれば、この方舟内の人口が無駄に減っていた。それがこの方舟の中で、どれだけの損失になるか想像できないわけはないだろう」
「……はい、承知して……おります」
耐えろ、耐えるんだ。泣いてはいけない、彼の神経を逆撫でするだけだ。分かってはいるが喉の奥から、既に嗚咽が漏れそうで。
「……かつてお前は、俺の反対を押し切ってこの組織に入ったな。絶対に役に立ってみせるからと、失望はさせないと。だがその体たらくだ、解雇処分とされても文句は言えないな?」
「あ……そ、それだけは! まだやれます、私はまだ戦えます」
「戦えるだけの者ならどこにでもいる。それにお前も言っていただろう、データベースにある神は全滅したのだと。確たる証拠のもと示されたゼロよりも、お前の意思を尊重する理由はどこにもない。よってお前は本日をもって——」
「あ、いたいた! さっきの……希空さんだっけ、ようやく見つけたよ」
——だが、その時私の右隣。何もなかったはずの空間が、突然白に塗りつぶされる。そして現れたのは間違いなく、先ほど私が保護した男だった。