アダムはいなかった 「使命」4

 ——「願い主」。それは私の前にいる、「神」という存在と根深い関係にある人間だ。

 いつか聞いた話によれば、神とは強い願いを持つ人間の前に現れ、その願いを叶えるために力を貸してくれるもので——神が現れる原因となった、願いを持つ人間を願い主と呼ぶらしい。今この男はそれが私だと、そう言ってのけたわけだ。

 願いの数だけ神はいる。なんなら願いに共鳴し、己は姿を得たのだと語る神もいた。だがその性質上、神というものはあまりにも人間に甘い。

「どうしたんだい、顔色が悪いよ」

 だからこそ——神とは狩られるべきなのだ。自らの願い主を優先するとはいえ、人間というものが発生理由である以上願いを持つ者には優しい。となれば邪な理由から神に擦り寄り、力を借りて悪事を働いてしまう者も少なからずいたわけで。

 世界が沈む前からそうだった。「正しい」人間が神の力で得た利益よりも、「間違った」人間が神の力で壊してしまったものの方が、明らかに大きいと言えるほどには。

 ふわりと笑い、私を案ずるその姿は、見る人からすればまさに神の微笑だ。けれどその実、こいつらは人間的な価値観を持たず、そのくせ人間を深く愛してくれやがっている爆弾のスイッチだ。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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