「頭とか打ってた、なんてことはないよね? 一応倒れる時、保護するようには動いたんだけど……」
「……そこまでして、私を庇わなきゃいけない理由なんてなかったでしょうに」
「ああ、その辺りに関しては……騙してすまないね、としか言えないな。僕たちは大体の怪我なら一瞬で治るけど、君たち人間は違うだろう?
何よりあのままじゃ、君が死んでしまうと思ったし……神としても、自分の願い主と出会うなんてレアケース、みすみす見逃すわけにはいかないよね」
つまりこいつ、人間的な正義感というよりは、己のやりたいことのために私を利用しただけか。それならば正直、銃撃事件の犯人探しの方がよほど重要な気がするのは私だけだろうか?
ああ、ナイフの存在さえバレていなければ行動に移せるのに。足踏みをしたい気分のまま、睨み上げた先の彼は相変わらずの笑顔で。
「はは、でも君は神が嫌いみたいだ。今にも僕を、殺したくてたまらないって顔してる」
「違います。この世の何よりも嫌いで、本当なら全員私が殺し尽くしたい、です」
「そっか。でも僕が強いことも、ちゃんと君は理解できてる。君みたいな人間は、有事の際に生き残る逸材だ」
どうしてこうも肯定的なんだ。私が今まで殺してきた、どんな神も「こう」じゃなかった。だがこいつは、私の願いに呼応して発生したから、私を特別扱いしているだけ?
分からない。分からないが決して、これがいい兆候ではないことは理解できた。
「あれ、どこ行くんだい?」
「家に帰ります。神が悪さをしない以上は、この組織は定時帰宅厳守ですから」
ジェイドの執務室から離れ、階下に向かうエレベーターに乗り込む。慌てたようについてきたサイラスが、「じゃあ家事は僕がやるよ」などと。
「……何、言ってるんですか?」
「え? だって居候させてもらうわけだし、それくらいはしないとなって」
「そうじゃなくて! なんで同居する流れになってるんですか、そんなこと許可するわけないでしょう!」
「でもさ、僕のことを徹底的に監視しろって言われてただろう? いいのかい、サボり扱いされちゃうかもしれないよ」
ぐ、と喉の奥が鳴る。監視体制について、もっと詳しく聞いておけばよかった。けれど今から戻るわけにもいかず、地上が近付くスピードはあまりにも遅く。
「大丈夫、君が思ってるような危険はないよ。それだけは約束する」
「……破ろうとしたら、その場で撃ち殺します」
「構わないよ。それじゃあしばらくの間、よろしくね希空さん」