アダムはいなかった 「使命」6

 この神は、いったい何を考えているのだろう。わざわざ自分の命を引き合いに出してまで、叶えたい願いにしては軽すぎた気がするし——だからこそそれが、嘘であるという可能性も捨てきれないのだ。

 となれば絶対に、何かを隠しているのだろう。警戒するに越したことはない。

「善良なフリなんかしなくていいです。希空でどうぞ」

「そんなつもりはないんだけどね……まあいいや、分かったよ。それじゃあ希空、今日からよろしくね」

 ああほら、そうやってまた胡散臭く笑う。人畜無害を絵に描いたようなその様子が、余計に怪しいことくらい分かっているだろうに。

「私としては、用が済んだら早々に死んでくださると助かります」

 だから同じ言葉を返すのも癪で、突き放せば流石に、傷ついたのか言葉を選んでいるのか沈黙があった。

「……はは、約束するよ。でも用事が済むまでは待ってくれるんだね、優しいなあ」

 それでもどうやら、この男の脳内にはお花畑が広がっているらしい。プラス思考もいいところだろ、どうしてそこまで嬉しそうなんだ。

 どっと襲った体の重さと、この状況への恨みつらみをため息と共に吐き出してようやく、エレベーターは一階に着いたようだった。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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