この神は、いったい何を考えているのだろう。わざわざ自分の命を引き合いに出してまで、叶えたい願いにしては軽すぎた気がするし——だからこそそれが、嘘であるという可能性も捨てきれないのだ。
となれば絶対に、何かを隠しているのだろう。警戒するに越したことはない。
「善良なフリなんかしなくていいです。希空でどうぞ」
「そんなつもりはないんだけどね……まあいいや、分かったよ。それじゃあ希空、今日からよろしくね」
ああほら、そうやってまた胡散臭く笑う。人畜無害を絵に描いたようなその様子が、余計に怪しいことくらい分かっているだろうに。
「私としては、用が済んだら早々に死んでくださると助かります」
だから同じ言葉を返すのも癪で、突き放せば流石に、傷ついたのか言葉を選んでいるのか沈黙があった。
「……はは、約束するよ。でも用事が済むまでは待ってくれるんだね、優しいなあ」
それでもどうやら、この男の脳内にはお花畑が広がっているらしい。プラス思考もいいところだろ、どうしてそこまで嬉しそうなんだ。
どっと襲った体の重さと、この状況への恨みつらみをため息と共に吐き出してようやく、エレベーターは一階に着いたようだった。