忘れることのできない、乾いた風が吹いている。
「初めまして、わたしはイヴ。あなた、わたしたちの娘にならない?」
砂混じりの風に咳き込みながら、顔を上げた先にいたのはアッシュブロンドの女性だった。吸い込まれそうな赤い瞳が、私を映してやわらかく細められる。
「おかあ、さんに?」
「そう。わたしね、とっても素敵な旦那さんがいるの。そしてあなたが、わたしたちの家に来てくれたら、わたしとっても、とっても嬉しいと思って!」
どこかでガスが漏れているのか、嫌な臭いが立ち込めて、辺りは瓦礫まみれだというのに、彼女は光り輝くように美しいまま私を見つめている。
その目をぼんやり見ているだけで、頭の芯が痺れるように感覚が遠のくのが分かった。今私のそばに倒れているのが、本当の両親の亡骸で。私はふたりに縋りついて泣いていたという事実すら忘れそうなほど、このひとの娘になりたいと思った。
「……わたしのこと、いじめない? たたくとか、ひどいこといわない?」
「もちろん。だからあなたさえよければ、一緒に来てくれる?」
嘘をついている気配はない。まだ少し怖かったけれど、私はこくりと頷いて。
「本当? ありがとう! すごくすごく嬉しい。それじゃあこれからよろしくね、あなたの名前を教えてくれる?」
「……のあ。さくら、のあ」
そして小さな手で、花が咲くように笑った彼女の手を、きゅっと握ったことを憶えている。