「それに銃だって返しただろう? 君自身、敵対している相手が部屋に忍び込んだ、なんてシチュエーションで、のうのうと寝てるほど危機感がないわけもない。
なら今僕が、こうして鍋をかき混ぜてるこの時こそ、君の安全が最も保証されている瞬間な気もするんだけどね。異論はあるかい?」
「私を油断させるための罠、とか」
「じゃあ銃なんて返してないよ。いくら油断させたって、リーチの差で勝てるわけはないだろう?」
ダメだ、言い負かすには相手の舌が回りすぎる。確かに昨日の深夜、なぜか銃は元通り返してもらったし——彼の言う通り、侵入されたような形跡も、私が夜中に目覚めることもなかった以上信じるべき、かもしれないが。
吐き気にも似た、重いものが胸の奥を占めている。うつむいたまま足が動かなくなって、気持ち悪さを細く息にのせる。改善する気配は、ない。
「……とはいえ、君の心配はもっともだ。毒なんて食らってしまった日には、死ぬまで苦しみ続けなきゃいけないし……たとえ君が自殺志願者だとしても、そんな死に方はまっぴらだというのは理解できる。それを考慮すれば確かに、食べないのが一番賢いだろうけど。
なんなら僕も一緒に食べていいかい、それでも嫌なら食べなくてもいい」
「……食材が、もったいないでしょう」
「大丈夫、僕こう見えて結構食べるよ。いやまあ食べなくても死なないんだけど、娯楽のひとつとしても有用だし……その、糧にしてあげられないのはちょっと申し訳ない、けど」
……ああもう、言い訳をするのが下手だなお前は!
「分かりました、ならそこだけは信用します。よそうのは私がしますから、あなたは席に座っていてください」
「え、だって家事は僕が」
「そう言われて全部任せるほど、堕落するつもりはありません! それに食器の位置は私の方が詳しいです、効率化できるところはそうすべきでしょう。異論は?」
「……な、ないです」
なんとか立ち上がり、動き出してしまえば案外いけるもので、食卓にはすぐ食事が並び。いただきますと両手を合わせ、私は箸を手に取った。