アダムはいなかった 「日常」2

「それに銃だって返しただろう? 君自身、敵対している相手が部屋に忍び込んだ、なんてシチュエーションで、のうのうと寝てるほど危機感がないわけもない。
 なら今僕が、こうして鍋をかき混ぜてるこの時こそ、君の安全が最も保証されている瞬間な気もするんだけどね。異論はあるかい?」

「私を油断させるための罠、とか」

「じゃあ銃なんて返してないよ。いくら油断させたって、リーチの差で勝てるわけはないだろう?」

 ダメだ、言い負かすには相手の舌が回りすぎる。確かに昨日の深夜、なぜか銃は元通り返してもらったし——彼の言う通り、侵入されたような形跡も、私が夜中に目覚めることもなかった以上信じるべき、かもしれないが。

 吐き気にも似た、重いものが胸の奥を占めている。うつむいたまま足が動かなくなって、気持ち悪さを細く息にのせる。改善する気配は、ない。

「……とはいえ、君の心配はもっともだ。毒なんて食らってしまった日には、死ぬまで苦しみ続けなきゃいけないし……たとえ君が自殺志願者だとしても、そんな死に方はまっぴらだというのは理解できる。それを考慮すれば確かに、食べないのが一番賢いだろうけど。
 なんなら僕も一緒に食べていいかい、それでも嫌なら食べなくてもいい」

「……食材が、もったいないでしょう」

「大丈夫、僕こう見えて結構食べるよ。いやまあ食べなくても死なないんだけど、娯楽のひとつとしても有用だし……その、糧にしてあげられないのはちょっと申し訳ない、けど」

 ……ああもう、言い訳をするのが下手だなお前は!

「分かりました、ならそこだけは信用します。よそうのは私がしますから、あなたは席に座っていてください」

「え、だって家事は僕が」

「そう言われて全部任せるほど、堕落するつもりはありません! それに食器の位置は私の方が詳しいです、効率化できるところはそうすべきでしょう。異論は?」

「……な、ないです」

 なんとか立ち上がり、動き出してしまえば案外いけるもので、食卓にはすぐ食事が並び。いただきますと両手を合わせ、私は箸を手に取った。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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