「あれ、そこはスプーンとかじゃないんだ?」
「出身が、もっと東の方なので。さすがに外では人に合わせますが、ここは私の家ですし」
「そっか。あれ、じゃあ棚に残ってる……ボロボロのカトラリーは?」
「……昔一緒に暮らしていた、父のものです。あなたに貸している部屋も、元は彼の部屋でした」
口にするだけで、じくりと胸が鈍く痛んだ。味噌汁の熱さが、直接そこを焼いていく感覚。
「あ、その……ごめん。馬鹿なこと、訊いたね」
「いえ、構いません。ちなみにジェイドのことです、間違っても死んだ扱いにはしないでくださいね」
「え、っ?」
困惑を映す瞳が、言いたがっていることは分かっていた。全く似ていないだろうとか、そもそも名字はどうなんだとか。教えてやる義理などどこにもないが、これはおそらく彼の「用事」に関わることだった。
「先ほど言った通り、私は別国の出身です。そこで本当の両親を亡くし、途方に暮れていたところを、イヴという名の神に保護されました。佐倉というのはその頃の名字です」
サイラスは何も答えない。ふわふわのオムレツは、私好みの甘いものだ。どうして知っているのかと、笑って問える関係ならばどれだけよかったか。
「ジェイドはかつて、イヴの夫でした。ですからイヴに保護された、ということは、私がジェイドの庇護下に入ったことと同義です」
「……なるほど、そういうことか。でも今、ふたりはここにいない」
「はい。
……ジェイドは今、組織で寝泊まりしていますし、イヴは私が九歳の頃……十年前と言った方が分かりやすいですかね。ともあれ随分前、ジェイドに殺害されました」