昨日彼に見せた、「方舟」の立体ホログラムを再度展開する。昨日と同じように縦に割れたそれを、カメラを引くように少し遠ざけて。
「『太陽』の光が下に行けば行くほど届きにくい、という都合上、上の階層になればなるほど電気以外での明るさを享受できる、という話はしましたね。ただ、これは逆に言うと下の階層になればなるほど、ほぼ常に電気が必要だという話になるんです。
加えて全員ではありませんが、自分より下の階層に住んでいる人を馬鹿にする人も……それなりに、多くて」
「あ、そっか……それってつまり、上の方に住んでいるほどステータスとか……」
「そうです。本来なら運搬効率や消費電力節約のため、もう少し上にまとめたかったのは確か、なのですが……その、言ってしまえば組織に出資してくださっている方々が、どうしても上の方に住みたいと……」
「なるほど。大人の事情ってやつなのは大いに理解したよ、大変だね……」
まったくだ。特に生産職の方なんて、いちいち転移申請をするのはあまりにも大変だろうに……
「でも階層が三つ必要なくらい、組織に賛同してる人が多いんだね。まあ今となっては、ジェイドは神様みたいなものなのかもしれないけど」
「否定できません。実際スラムも、他に呼称がないからそんな呼び方ですが、思ったよりは荒れてないですし。組織に同調はできないが金はある、みたいな人もいるくらいですからね」
「うわあめんどくさ……でも、いくらこの閉鎖空間の中とはいえ、そんな数の人に賛同してもらえるってすごいことじゃ……」
『——本日の、ジェイド様のお言葉です』
サイラスの言葉を遮り、頭上の巨大モニターにジェイドが現れる。行き交う人々が色めき立ち、私は半眼、サイラスは呆然。
「……え、何これ」
『こんにちは、「方舟」の皆さん。ジェイド=ムーンリットです……なんて、知らない人はいませんよね。今日も少しだけ、あなたの貴重な時間をいただけたらと思います』
「不定期にある御高説垂れ流し番組です。ちなみに生放送らしいですよ。
……ちなみにですけど、これはあなたへの皮肉でしょうね。あとムーンリットは、イヴを亡くしてから名乗り始めた名前です。私は使ってないです」
「ははあ……なんかすごいね……」
無理もない。私は本性を知っているからなんとも思わないが、何も知らなければ……少なくとも画面と音の大きさには、圧倒されていたかもしれないし。
『ではまず今日も、「太陽」の加護に感謝を。そして今日までに、その力を太陽へと与えてくださった神々にもまた感謝を……』
まったく白々しいものだ。けれど周りの人々が、揃って祈りを捧げている中、棒立ちの私とサイラスの方が……あるいは異端、なのかもしれないけれど。