アダムはいなかった 「崇拝」2

 昨日彼に見せた、「方舟」の立体ホログラムを再度展開する。昨日と同じように縦に割れたそれを、カメラを引くように少し遠ざけて。

「『太陽』の光が下に行けば行くほど届きにくい、という都合上、上の階層になればなるほど電気以外での明るさを享受できる、という話はしましたね。ただ、これは逆に言うと下の階層になればなるほど、ほぼ常に電気が必要だという話になるんです。
 加えて全員ではありませんが、自分より下の階層に住んでいる人を馬鹿にする人も……それなりに、多くて」

「あ、そっか……それってつまり、上の方に住んでいるほどステータスとか……」

「そうです。本来なら運搬効率や消費電力節約のため、もう少し上にまとめたかったのは確か、なのですが……その、言ってしまえば組織に出資してくださっている方々が、どうしても上の方に住みたいと……」

「なるほど。大人の事情ってやつなのは大いに理解したよ、大変だね……」

 まったくだ。特に生産職の方なんて、いちいち転移申請をするのはあまりにも大変だろうに……

「でも階層が三つ必要なくらい、組織に賛同してる人が多いんだね。まあ今となっては、ジェイドは神様みたいなものなのかもしれないけど」

「否定できません。実際スラムも、他に呼称がないからそんな呼び方ですが、思ったよりは荒れてないですし。組織に同調はできないが金はある、みたいな人もいるくらいですからね」

「うわあめんどくさ……でも、いくらこの閉鎖空間の中とはいえ、そんな数の人に賛同してもらえるってすごいことじゃ……」

『——本日の、ジェイド様のお言葉です』

 サイラスの言葉を遮り、頭上の巨大モニターにジェイドが現れる。行き交う人々が色めき立ち、私は半眼、サイラスは呆然。

「……え、何これ」

『こんにちは、「方舟」の皆さん。ジェイド=ムーンリットです……なんて、知らない人はいませんよね。今日も少しだけ、あなたの貴重な時間をいただけたらと思います』

「不定期にある御高説垂れ流し番組です。ちなみに生放送らしいですよ。
 ……ちなみにですけど、これはあなたへの皮肉でしょうね。あとムーンリットは、イヴを亡くしてから名乗り始めた名前です。私は使ってないです」

「ははあ……なんかすごいね……」

 無理もない。私は本性を知っているからなんとも思わないが、何も知らなければ……少なくとも画面と音の大きさには、圧倒されていたかもしれないし。

『ではまず今日も、「太陽」の加護に感謝を。そして今日までに、その力を太陽へと与えてくださった神々にもまた感謝を……』

 まったく白々しいものだ。けれど周りの人々が、揃って祈りを捧げている中、棒立ちの私とサイラスの方が……あるいは異端、なのかもしれないけれど。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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