「……では、知りたいことをいくつか挙げてくださると助かります。言っておきますが特例ですからね」
「うん、ありがとう。すごく助かるよ。
なら……うーん、そうだなあ。『方舟の現所有者が死んだ場合どうなるか』と、『君たちの扱う武器について』、まあこれは無理ならそれでいいよ。そして『太陽』について、これはできる限り詳しく教えてほしいかな」
「分かりました、ではまず方舟についてから」
端末の画面を数度タップし、空中にサブ画面を展開。機密情報を避けながら、たどり着いた部分をサイラスに見せてやる。
「これは以前、死亡したとある神の創造物が消滅した、という前例についての資料です。今でこそ階層転移は、組織に申請し承認が降りてからかつ、一般人には申請資料の作成から、というハードルの高いものですが……以前はそうではありませんでした」
該当する神についての情報をスクロールし、表示したのはかつて使用されていた階層転移アイテムだ。どちらかといえば、風変わりなオブジェのように見えなくもないが。
「なるほど、これと同じものが各階層に存在していて、各自のタイミングで別の『これ』へと移動できるワープポイントだった……とかいう?」
「そういうことです。これが力の元となった神の死亡、もといイヴへの吸収完了後、全て跡形もなく消え去ったため……先ほどの問いに対する答えは『おそらく消滅する。ただしイヴは今までに例のない神であるため断言できない』です」
「なるほど……イヴは死してなお活動してるんだもんね。でも分からないな、どうしてイヴは『太陽』に?」
「それに関しては……厳密に言うと、輝いているのはイヴではないんです」
現在位置から数ページ飛ばし、現れた図をサイラスに示す。そこには巨大な球体の中に、ぼんやりと女性の姿が浮かんでいるようにも見える写真があった。
「先日私があなたに言った、『神の亡骸は燃料だ』という話は表向きのものでして。正しくは『亡骸には神の力が残っている』という前提のもと、『イヴは太陽の核であり、捧げられた亡骸に対応した力を扱える万能の器』です」
「つまり……今また転移の力を使えているのも、彼女が日光に相当する光を放てているのも」
「ほかでもないイヴが『人間を守りたい』という意思のもと、適切にそれらの力を管理しているからです。
ですから夜は、ちゃんと人間が眠れるように彼女は光量を抑えますし、彼女の意思を無視して、無理やり転移を願えば移動こそできますが、全身をずたずたに引き裂かれて死にます。聞けば、人間には過ぎた力を適切に扱わない代償、らしいです」
「……余計に分からなくなったね? そんなの人工知能にでもできることだろう、なぜイヴがそんな重荷を?」
……そう。そこなのだ。この組織というよりジェイドの行動理念は、時折よく分からない方に向かう。