「ですが、それ以上のことは書かれていませんし聞かされてもいません。そのため『なぜイヴが太陽の核になっているのか』は不明です。
どうして神を殺すのか、に関してなら、仮説を立てられなくもないんですけどね。『願い』の力の塊である神を殺し、その力を一箇所に集めることによって、皆で雨が止むように願えば叶うのではないか、とか」
「なるほど……ありがとう、僕の方でもできることをしてみるよ。それじゃあ武器については」
「簡単です。前提としてあなたたち神は、『人間の血液を摂取してはいけない』という制約があるそうですね。ですから人間の血を込めた弾丸やナイフで——」
指で作った銃を彼のこめかみに向け、「バン、です」。え、と上がった声はひどく間抜けなものだった。
「そうなの? 初耳だなあ……ってちがっ、冗談! 冗談だから! なんなら仕組み言えるくらいには詳しいから! ごめんってば引き金引かないでぇえ」
騒ぐな。なんならこいつの相手をするだけで、疲労が普段の十割増である。そんなに慌てるなら最初からするな、と視線で訴える私に、「ごめんって」とサイラスは眉を下げた。
「というのも、僕たち神の間にも階級があってさ。この世界で最初に発生した神、っていうのが『意思あるものが思いつく全ての力』を扱える最高神。そしてそれ以降が、その最高神から力を分けてもらってる下級神なんだ。
今君が言ったのは多分、最高神には適用されない制約だね。下級神っていうのは元々実体を持たず、人の願いに共鳴して『叶えてあげたい』って思っただけの存在だからさ」
……色々と初耳だが、嘘をついているようには見えない。聞き入る私に気をよくしたのか、「でね」と弾む声のままサイラスは続けた。
「最高神はすごいんだよ、何より感情がないから公平かつ無駄のない判断を下せるんだ。ただもうどこか遠いところで、芽生えてしまった恋心に狂って死んだとも聞く。
で、なんで血を摂取しちゃいけないかだけど……さっきも言った通り、下級神は最高神にもらった仮初の体によって、『叶える』ためだけの存在だから、が答えだね。願いの元となった『人間』の血を摂取する、ってことは、少なくとも傷ついた人間がいて、わざわざそれを飲みでもしない限り起こり得ないことだと最高神は思ったんだろう。
つまり願いを叶えて幸せにしてあげなきゃいけない相手を害した、ってことで……存在理由と矛盾が起きて、体が崩壊する。そして君も言った通り、神の力もだけど意思や記憶も一緒に、その場に砂となって残る」
「なる、ほど……?」
通信端末のメモへと、聞いたそばから考えもせず書いていたが確かに、筋が通っていると言えなくもない。しかしまさか、下級神が道を踏み外さないようにとかけられたセーフティを悪用していたとは……