「つまり。今君の腰にあるポーチだけど、その中にはまだ神が『いる』ってことだ」
ぎくり、とした。サイラスが現れた際のゴタゴタで、思わず持ち帰ってしまったのだが本当に、ここにいるのか。思わず両手で押さえたそれが、なんだか途端に気味の悪いものへと変化した気がして。
「まあともあれ、教えてくれてありがとう。僕は君たちのやっていることに対して、とやかく言うつもりはないから安心しておくれ。誰かにとっての悪は必ず、誰かにとっての正義だからね」
「……本当に?」
「もちろんさ。僕は自分が一番可愛いんだ、その次は君で他はどうでもいい。だから僕には、君しかいないって言い方もできる」
「神は等しく、人間が好きなんじゃないんですか」
「好きだよ? 君という人間に関してはね」
……なんだろう、この違和感は。
ニコニコと人好きのする笑みを浮かべながらも、彼の瞳はどこか遠くを見つめている。私という存在を気に入っていると言うくせに、私のことなんて見えていないんじゃないかと思うほどには——底知れぬ闇が、見えたような気がして。
「もしかして、寂しいんですか」
気付いた時にはそう口にしていた。見開かれた瞳がようやく、私を見据えたことにある種の高揚すら覚える。
「言ってましたもんね、誰かに必要とされてみたいって」
それ故に、言葉は止まりそうもなく。
「本当に……そういう経験が何もなかったから、興味本位でそう言っているのだとばかり思っていましたが。なんとなく理解しました、あなたは私を必要としていて……私に『たすけてほしい』と思っている。
だってそうでもなければ、自分を理解しない相手に優しくする必要なんてありません。君しかいないなんて甘言を紡ぐ必要も、私に微笑むこともしなくていい。必死になって愛情を掴み取ろうとするのは、一度失ったそれがまた欲しいから。違いますか」
「……そ、んなの真正面から言われて、そうだよ寂しいんだ、なんて返せると思うかい……?」
「そうですね、それは失礼しました。ただ、もういない『誰か』と私を重ねるくらいなら、私のことを大切だなんて言うのはやめてください。不愉快です」
「そ、そりゃそうだろうね……というか近い近い! どうしてそんな急に、グイグイ来るようになったんだい君は……!」
両腕で顔を覆い、のけぞる彼に詰め寄った。きめ細やかな肌も、きれいな目を縁取る長いまつ毛も。全て全て作り物で、あと一週間しないうちに崩れ落ちるものだと。そういった前提のもとに生きているというなら、少しだけ。心を開いてやっても構わないだろうか、なんて。
気の迷いだった。分かっている。