アダムはいなかった 「調査」4

「つまり。今君の腰にあるポーチだけど、その中にはまだ神が『いる』ってことだ」

 ぎくり、とした。サイラスが現れた際のゴタゴタで、思わず持ち帰ってしまったのだが本当に、ここにいるのか。思わず両手で押さえたそれが、なんだか途端に気味の悪いものへと変化した気がして。

「まあともあれ、教えてくれてありがとう。僕は君たちのやっていることに対して、とやかく言うつもりはないから安心しておくれ。誰かにとっての悪は必ず、誰かにとっての正義だからね」

「……本当に?」

「もちろんさ。僕は自分が一番可愛いんだ、その次は君で他はどうでもいい。だから僕には、君しかいないって言い方もできる」

「神は等しく、人間が好きなんじゃないんですか」

「好きだよ? 君という人間に関してはね」

 ……なんだろう、この違和感は。

 ニコニコと人好きのする笑みを浮かべながらも、彼の瞳はどこか遠くを見つめている。私という存在を気に入っていると言うくせに、私のことなんて見えていないんじゃないかと思うほどには——底知れぬ闇が、見えたような気がして。

「もしかして、寂しいんですか」

 気付いた時にはそう口にしていた。見開かれた瞳がようやく、私を見据えたことにある種の高揚すら覚える。

「言ってましたもんね、誰かに必要とされてみたいって」

 それ故に、言葉は止まりそうもなく。

「本当に……そういう経験が何もなかったから、興味本位でそう言っているのだとばかり思っていましたが。なんとなく理解しました、あなたは私を必要としていて……私に『たすけてほしい』と思っている。
 だってそうでもなければ、自分を理解しない相手に優しくする必要なんてありません。君しかいないなんて甘言を紡ぐ必要も、私に微笑むこともしなくていい。必死になって愛情を掴み取ろうとするのは、一度失ったそれがまた欲しいから。違いますか」

「……そ、んなの真正面から言われて、そうだよ寂しいんだ、なんて返せると思うかい……?」

「そうですね、それは失礼しました。ただ、もういない『誰か』と私を重ねるくらいなら、私のことを大切だなんて言うのはやめてください。不愉快です」

「そ、そりゃそうだろうね……というか近い近い! どうしてそんな急に、グイグイ来るようになったんだい君は……!」

 両腕で顔を覆い、のけぞる彼に詰め寄った。きめ細やかな肌も、きれいな目を縁取る長いまつ毛も。全て全て作り物で、あと一週間しないうちに崩れ落ちるものだと。そういった前提のもとに生きているというなら、少しだけ。心を開いてやっても構わないだろうか、なんて。

 気の迷いだった。分かっている。

  • 0
  • 0
  • 0

静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内