「ねえ、サイラス」
だって、私もずっと寂しかった。散々警告はしたし、離れろとも告げた。それでも離れなかったのは、お前の責任だと無責任に告げて。
「あなたの死を、私は誰より嘆いてあげます。私の手で絶望に叩き落として、殺した後に……なんなら後を追ってあげてもいい」
囁いたそれは、おそらく彼の望む最期だ。寂しがり屋で、けれど人ではないが故に、誰にも手を伸ばせなかった彼と——誰からも見放された私は。傷を舐め合う仲であるなら、きっとあまりにも相性がいい。
「ちょ、ちょっと希空、本当にどうしちゃったんだ君……!」
彼が私の変わりようを、そうやって心配するのは私に愛されたいからだ。ならば応えてやろうじゃないか、残念ながら同じものは返せそうにないが!
「大丈夫、正気ですよ。どうせ私も、この任務が終わったら死ぬつもりでしたから」
「……え」
どうしてそこで青ざめるのだろう。どうせ死にゆくお前にとって、私が死のうが生きようが関係ないだろうに。
「な、んでさ。君まで死ぬ必要なんて、どこにも」
「あるんですよ。殺すことばかりしてきた上で……いつも考えていたことです。
あなたと初めて会った日、私はジェイドに解雇処分されかけていました。それがあなたの登場で少し先延ばしになっただけで、あなたが死ねば、組織の悲願は達成されて私はお役御免。戦闘以外のスキルがない私にとって、それは死活問題でもあります」
「だからって!」
「だからって、なんですか? ジェイドもそれが分かった上で、私を解雇しようとしていたわけですし。あの人に父親の情なんて、もう欠片も残ってないんでしょうね」
新たに仕事をするために、何か勉強するにしたって、それまで食いつなぐだけの資金などあるわけもない。元々給金が少なくてもいい、働かせてくれと頼み込んだ結果の採用だった以上、そこは絶対に揺らがないだろう。
「いいんですよ、神の全滅も見届けられそうですし。でも同時に、唯一私に優しいあなたを喪うのは……さすがにつらいものがあるので」
「……僕、は……」
首元の印へと手を伸ばし、彼はぐしゃりと表情を歪める。それは彼自体が結んだ契約であり、きっとそこから上を失うであろう切り取り線だ。
「……見張りの人が、起きそうだから……詳しいことはまた後でも、いいかな」
そうしてひどく苦しそうに、告げてすぐ彼の姿が消える。よく分からない。
ほぼ同時に、帰宅を促す五時のチャイムが響いた。情報端末の電源を落とし、棚に戻しかけたところで——近くにあった蔵書に紛れ込む、ジェイドの家系図に視線を奪われる。
見てもどうにもならないし、そもそも退社の時間が迫っている。それでもそこに、かつて存在したであろう幸せな家庭の軌跡が載っているのだ、と。
そう思うだけで視界がにじむのは、果たしてなぜなのだろう。私にはもう、縁のない話だというのに。