アダムはいなかった 「不死」1

 聞こえるはずもない雨の音が、ざあ、と耳の裏を這ったような気がした。

「だ、って……神は願いを叶えるだけの存在じゃ、ないんですか」

「うん、君の言いたいことも分かるよ。でも言っただろう、僕は『意思あるものが思いつく全ての力』を持ってるって。そしてそれを、他の存在に分け与えることもできるって。
 ……当然その中に、『不死』の願いが含まれてないわけはないだろう?」

 だから今、それを君に与えたんだ、と。これが自分の正体だとでも言うように、抑揚のない声はなおも続く。

「……おかしいとは思わなかったのかい。神を傷付けても、後には砂しか残らないのに……僕は血を流していただろう。加えてなぜ、僕が自分を最後の神と言い切れたのか。君だって本当は、勘付いていると思っていたんだけどね」

 言葉が、何一つ出てこない。固まったままの脳をなんとか動かして、「でも」と落とした声はどうしようもなくか細かった。

「……いつか、情報提供をしてくれた神は……五百歳を超えているって、言いました。それよりも長い間、生きていたというなら……私が願い主ではない、んじゃ」

「ああ、簡単だよ。神が願いに共鳴するタイミングは様々だ。願われてから十年後に僕のところまで来る者もいたし、願われる数百年前にはもう僕に力を乞うてきた者もいる。
 だから自分の願い主と、会えずじまいの神もいた。そればかりは運だね、誰が悪いわけでもない。
 そして僕は、大方二千年前……いつか生まれる君の願いを受けて、最初の神として誕生した」

 ……そんな、馬鹿な。

「約束については……どう、なんですか」

「……それについてはまだ内緒。ただしもう、僕を着々と蝕んでいるものがあることだけは教えてあげるよ。

 あと、言っておくけど今僕を傷つけても無駄だよ。僕は君たちのやり方じゃ死ねないからね、砂になって崩れ去ることもない。前に言っただろう?
 ね、希空。だからお願いだ」

 段々と、いつもの調子に戻りつつある声で。続く言葉がなんなのかを、察しているのに止められない。

「生きてくれ。僕と一緒に死のうだなんて、馬鹿なことを考えるのは……どうか」

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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