——果たしてそれから、どれほど走り続けただろう。
家が随分と端の方にあるから、反対側の端まで駆けて。誰もいない公園のベンチの上、ひとりうずくまってまた、しばし泣いて。
サイラスにありとあらゆる暴言を吐いて、家を飛び出したことは何も後悔していない。ただ道中、転んだ際にできた傷がやはり一瞬で治ってしまうことも。持ってきた銃で頭を撃ち抜いても、即座に意識が戻ってしまうことも……分かってはいたが、体感するとあまりにも酷な事実で。
分かっているのだ、死にたいなんて考え方自体間違いだと。それでも今までずっと頑張ったのに、解決しない問題にぶち当たって、もはや一歩も動けなくなったのだから。そんな状態から解放されたいと、そう思うこと自体を否定しないでほしかった。
だがどうせ、生きたい者や命を賭してまで叶えたい願いがある者に、そんな考えが理解されるはずもない。だからもう、泣くことしかできなかった。
近所迷惑なんて考える余裕もなく、大声で泣き喚いて砂の上を転がり、近くの木に頭を打ち付けるも血は流れない。おかしいだろうこんなの、どんな死に方より酷いじゃないかこんなの!
「……っ、ひ……ぅぐ、うぅ……!」
それでもいささか疲れてきて、ベンチの上に転がった。そろそろ朝が来るのだろう、結局一睡もできなかったな、と。
何度目かも分からない、涙をぬぐう動作を終えてふと。無我夢中で家を出る際、いつもの癖で腰にポーチを下げてきたことに気付いた。
まずい、と背中に冷たいものが走る。きっと嘲笑われているだろう。自分を殺した人間が、今も亡骸を持ち歩いたまま泣いているなど「ぜひ笑ってください」と言っているようなものだ、と。
瓶ごと取り出した砂を、衝動のまま近くの砂場へと振りかぶって——
『な、投げるな投げるな思いとどまれ! さすがに普通の砂と混ざったら、回収大変だって分かるだろそれくらい!』
頭の中に響く、青年の声に動きを止めた。
だが辺りをいくら見回しても、声の主らしき人物はどこにもいない。ついに幻聴まで聞こえ始めたか、と再度、瓶を持つ手に力を込めかけて。
『だああああ幻聴じゃねえから! 安心しろオレはここだ! お前の手! 手の中! もっと言うなら瓶の中だ!』
「……え?」
どういうことだ、砂が私の頭に語りかけている……?
混乱した頭のまま、ベンチの上に瓶を置く。そうすればどこか安心したような声が、再度私の脳内に響いた。