『はあよかった、思いとどまってくれてどーも。少しは落ち着いたか?』
「……誰ですか」
『いやオレのこと殺しといて随分薄情だなあオイ……あと、オレの声は口がない以上音じゃねえから、現状お前にしか聞こえてない。だからお前も頭の中で話せ、不審者度マックスだぞ今』
(つまり、こういうことですか)
『そうそう。これで安心して話せるな、あと不便だからオレに名前付けてくれよ』
あくまで快活に、そして優しく響く声は、私への敵意など微塵も感じられない。やっぱり都合のいい幻聴では、と現実逃避しかけた私に、『ちげーから! これはちゃんとオレの意思だから!』と即ツッコミが飛んだ。
『……ほら、お前がアダム様と出会う直前、お前に殺された神だよオレは。アダム様も言ってただろ、神の亡骸には力と意思が残ってるって』
(じゃあなんで、そんなに普通に接してくれるんですか)
言いながらも、サイラスが「アダム様」と呼ばれていることに追撃のような落胆を覚えた。ああやはり、彼の言っていたことは事実なのか……
『ああもうそれ、それだよ。殺されて以降、ずっとお前の様子を見聞きしてたけどさ。お前のそのマイナス思考イライラするんだよな、オレのこと殺したくせに死にたがってるし』
(……ごめん、なさい)
『でも……いやだからこそ、か。なんでだろうなあ、昨日からずっと泣いてるお前の声、あんまりにも悲痛で……今まで本当に、しんどかったんだろうなって分かっちまって。怒るに怒れなくなったから、こうして声かけたんだよ』
(とは、いいましても)
『まあ信用ならねえよな、オレも罠だと思うよ普通。けどさ、聞いてくれよ。
……オレの願い主は、病弱で小さい女の子でさ。家族は全然見舞いにも来ない奴らだったから、オレのことをお兄ちゃんお兄ちゃんって、ずっと慕ってくれてたんだが……つい最近、死んじまったんだよ』
——「……こっちだって、死人が出たばかりで忙しいのにな。家族も見舞いに来ないような、小さい女の子だったんだ……」