アダムはいなかった 「不死」5

 は?

『うわ失礼だな、は? じゃねえだろは? じゃ!』

(言ったそばから! 今聞かないようにするって言ったのアレクじゃん!)

『今思いっきり顔に出てたからな! むしろそれ以外の感情絶対なかったろお前!』

 うーんバレている。だが事実だから仕方ないだろう。だって瓶入りの砂に、「今日から妹にしてやる」と言われるシチュエーション、あまりにも特殊。

『まあ、嫌なら無理にとは言わねえが。ともあれオレは——』

(いや……アレクさえいいならぜひ。でも恥ずかしいから、お兄ちゃんとは呼ばないからね)

 ——もしもまだ、アレクに肉体があったとしたら、凄まじい勢いで二度見されていたと思う。

『お、おう……しかしいいのか? 言い出したのはオレだが……神だぜ、これでも』

(昔から、きょうだいってものに憧れてたから。結局叶わないままだったし、アレクのことは信頼できるって判断した。だから大分……嬉しいよ)

 ……そうか、と。なんだか感慨深げなアレクの声に、思わず瓶を撫でていた。

『おいこら撫でんな。ともあれ今は家帰るぞ、アダム様にはいったん、オレが話つけといてやるから』

(……うん)

 なんとも頼もしい兄さんだ。彼入りの瓶を大事に抱え、私は家への道を戻り始めた。

『しかしまあ、アダム様も随分……お前のことが大事なんだな』

(な、んでそうなるの……私に色々嘘ついた上で、あんなことしたくせに)

『……言ったろ、アダム様には元々感情なんかなかったんだ。例えそれらしく振る舞ってるだけだとしても、そんなの昔じゃ考えられなかったことだ。それだけお前に、異質だと思われて避けられたくなかったんだろうよ』

(違うと思うけどなあ。目的を果たすために不審がられないようにするのって、基本中の基本じゃない?)

『まあ、そうとも言えるけどなあ。そもそも当初の目的に……いや、まあいいか。それはオレから言うべきことじゃないな、陰から応援してるぜ』

 何をだ。けれどなんとか、涙は引いて声も戻りかけているから——アレクの存在は本当にありがたいものだった。あのまま一人でいれば発狂していた自信がある、感謝しなければ、と。

 お礼の言葉を考えかけて、うまく言葉にできずに止める。おそらくもう、彼が元の姿に戻れることはないのだろうが……できるだけ長く、一緒にいられればいいなと思った。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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