アダムはいなかった 「睡眠」1

「僕は謝らないからね」

 帰るなり、さも「つーん」という効果音がぴったりの様子で、サイラスは私から顔をそむけた。

『落ち着け、殴ってもいいことねえぞ希空。オレに任せといてくれ』

 私の殺意が伝わってしまったのか、耳打ちするように言って——アレクは少し、声の調子を変えた。

『アダム様、お久しぶりです』

「ってうわ、久しぶりだね! あの時散らばってたのはそっか、君だったかあ……」

『まあ、そういうことに……なりますね。不甲斐なくて申し訳ありません』

「いいよ、むしろよく頑張って今まで逃げてたさ……せっかくだし、名前で呼んでいい?」

『いえ、今はとりあえずアレクとお呼びください』

 ……うん、いい感じにサイラスの注意を引いてくれている。サイラスはサイラスで、玄関で律儀に待っていたくせに……と思わなくもないが、どちらにせよ今はシャワーを浴びたかった。

 自室からタオルや着替えを回収し、風呂場へ向かうその途中。ちょうどリビングのそばを通れば、今もアレクとサイラスが話しているのが聞こえて。

『……それよりアダム様も、好きな相手に意地悪するとか、人間の幼児みたいなことしてないでですね……素直に好きだ、一緒にいてくれって言えばよかったんじゃないですか』

 ん?

「はは、無理だよ。そもそも僕の死を前提として一緒にいるんだ、彼女は神が嫌いだしね。
 それに、僕のおもーい愛情を彼女が黙って受け止めてくれると思う? いや無理だろ、って潰れるに一票どころか百票だね」

 ……ここで私が、「えっ……?」などと乙女的反応をするようなやつならば、話はもう少し簡単だったかもしれないが。正直な感想としては「何ふざけてんだこいつら」だった。

 私がここで聞いていることも、おそらく二人にはバレているだろう。そもそも私に聞こえないように話すこともできただろうし、何より人を勝手に不死にするような輩に好かれて嬉しいわけないだろうが。

 まったく、神が二人も揃って暇人か。いやこの場合、暇神なのかもしれないな……などと思いながら、私はひとり風呂に向かった。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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