きっちり髪を乾かして戻ったリビングでは、カウンターの上に置かれたアレクの姿しかなく。サイラスを目で探していれば、アレクが『よ』と声を上げた。
『おかえり。アダム様ならちょっと寝るってさ、メシはそこだとよ』
「うわ、変なとこで律儀だなほんと……というか神も寝るんだね?」
『そりゃあなー。まあ本当は必要ないんだが、長いこと生きてると考え事するより寝てた方が楽、って時期もあった』
「それって何百年か起きないやつでは……」
『はは、まあそういうやつもいたな』
いたんかい。まあとりあえずご飯食べるか、とテーブルの上にあった諸々へと歩み寄って——
「うわあ……」
『どうした? なんかやべえもんでもあったか』
「あーうん……まあ、確かにやべえかもね……」
確かに冷蔵庫の中身からするに、いずれ出てくる気はしていたが……肉と野菜のトマト煮、ハヤシライス、オムライス、ハンバーグにエビチリなどなどなど。少なくとも私一人では絶対に食べきれない量の、かつ私の大好物であるそれらが惜しげもなく並んでいるあたり、これは。
「ご機嫌取りというよりは、食えるもんなら食ってみろやバーカバーカみたいな挑戦を感じる」
『……アダム様……』
「でもサラダ系も充実してる、私が野菜そんなに食べないのバレてる……」
『もうアダム様のこと、神じゃなくて神業料理人ってことにして雇わねえか? 見逃してもらえるかもしれねえじゃん』
無理だろ。というか返答めんどくさくなってるなアレクめ。
『あれ、どこ行くんだ? まさかの食事ストライキか?』
「違うよ、サイラスについての報告書作らなきゃいけないんだ。
……行儀悪いけど、そろそろ報告しにも行かなきゃいけないから……食べながら作っちゃおうかなと。あと単純に、黙々と食べるより入りそうだから」
さすがにそろそろ、腹を据えねばならないだろう。私は私で、まだ死ぬことを諦めたわけではないし——何より彼を、ひとりで死なせることは嫌だった。
『……やっぱお似合いだよあんたら。強がってないで素直になりゃいいのになあ』
(いーやーでーすー。そもそも私、サイラスのこと好きなわけじゃないし。昔の私を見てるみたいで、放置するの寝覚めが悪いだけだし)
『はいはい、じゃあそういうことにしとく。ただ、手遅れになる前に後悔の種は潰しとけよ』