アダムはいなかった 「睡眠」2

 きっちり髪を乾かして戻ったリビングでは、カウンターの上に置かれたアレクの姿しかなく。サイラスを目で探していれば、アレクが『よ』と声を上げた。

『おかえり。アダム様ならちょっと寝るってさ、メシはそこだとよ』

「うわ、変なとこで律儀だなほんと……というか神も寝るんだね?」

『そりゃあなー。まあ本当は必要ないんだが、長いこと生きてると考え事するより寝てた方が楽、って時期もあった』

「それって何百年か起きないやつでは……」

『はは、まあそういうやつもいたな』

 いたんかい。まあとりあえずご飯食べるか、とテーブルの上にあった諸々へと歩み寄って——

「うわあ……」

『どうした? なんかやべえもんでもあったか』

「あーうん……まあ、確かにやべえかもね……」

 確かに冷蔵庫の中身からするに、いずれ出てくる気はしていたが……肉と野菜のトマト煮、ハヤシライス、オムライス、ハンバーグにエビチリなどなどなど。少なくとも私一人では絶対に食べきれない量の、かつ私の大好物であるそれらが惜しげもなく並んでいるあたり、これは。

「ご機嫌取りというよりは、食えるもんなら食ってみろやバーカバーカみたいな挑戦を感じる」

『……アダム様……』

「でもサラダ系も充実してる、私が野菜そんなに食べないのバレてる……」

『もうアダム様のこと、神じゃなくて神業料理人ってことにして雇わねえか? 見逃してもらえるかもしれねえじゃん』

 無理だろ。というか返答めんどくさくなってるなアレクめ。

『あれ、どこ行くんだ? まさかの食事ストライキか?』

「違うよ、サイラスについての報告書作らなきゃいけないんだ。
 ……行儀悪いけど、そろそろ報告しにも行かなきゃいけないから……食べながら作っちゃおうかなと。あと単純に、黙々と食べるより入りそうだから」

 さすがにそろそろ、腹を据えねばならないだろう。私は私で、まだ死ぬことを諦めたわけではないし——何より彼を、ひとりで死なせることは嫌だった。

『……やっぱお似合いだよあんたら。強がってないで素直になりゃいいのになあ』

(いーやーでーすー。そもそも私、サイラスのこと好きなわけじゃないし。昔の私を見てるみたいで、放置するの寝覚めが悪いだけだし)

『はいはい、じゃあそういうことにしとく。ただ、手遅れになる前に後悔の種は潰しとけよ』

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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