……アレクにそれを言われてしまうと、さすがに黙らざるを得ない。再びこぼれかけた「ごめん」を噛み殺して、私はタブレット端末を手にリビングへと戻った。
『なあ希空、内容がオレにも見える位置まで連れてってくれないか』
「あれ、なんで? まあアレクなら問題ないと思うけど」
『オレが知ってる情報についても、できるだけ共有しときたいし……お前、起こったこと全部書くつもりだろ? となればオレも知りたいから、もう少し近くで見たい。いいか?』
いいよと頷き、私はアレクが入った瓶を自分のすぐ近くに置いた。それからハヤシライスとオムライスのようにジャンルがかぶるものは、一部ラップをして冷蔵庫に入れて、と。ある程度テーブルの上にあるものが減ったところで、「いただきます」と両手を合わせた。
「む、うまい……やっぱりトマト缶と煮たお肉好きだなあ……」
やはり元々、感情がなかった分余計なことを考えずに上達できるものなのだろうか。そもそも願いの力さえあれば、なんだって簡単にこなせるとかそういう……?
『……言っとくが、アダム様だってある程度苦労して上達したはずだぞ。感情がない分、料理とかは好みの味付けがないから何でもいいまであるし』
「なるほど……? その辺り前から気になってたんだよね、私の好みの味どこで知ったんだろうなあ」
『そこらへんは知らんが……アダム様を見る限り、あの方が今も無感情だとは思わないけどなオレは』
「え、私の好みに合わせてくれてるってこと? 別に好きなの食べればいいのにね、私を喜ばせたってサイラスに実益ないのに」
そういう問題じゃないと思うなあ……とぼやくアレクの真意は置いておくとして、私はタブレットを起動する。彼によく見えるよう、位置を調整してから記入を始めた。
「まず、彼の正体がアダムだってことと……詳しいことは不明だけど、私が不死にされたってことと……最高神と下級神の関係についてと弱点と……うん、大体こんな感じかなあ」
『あれ、オレのことは書かねえのか?』
「……書いたら差し出せって言われるじゃん。私やだよ、アレクのこと大事だし」
『なあ希空、お前ちょろいってよく言われないか?』
「友達いたことないから、一回もないけど……別に普通じゃないの?」
『そ、そうかあ……でもオレが「太陽」に捧げられてないってのは事実だろ、そのうち出せとは言われるだろうから……あんまりオレに対して、大事だとか思わない方がいい』
ぐ、と胸の奥がきしむ音がした。