「……そうならないためにも、今から組織に行って色々模索しようと思う。ついてきてくれる?」
『嫌だって言っても聞かないんだろ、ならついていくさ。
……ただその前に。オレから質問と情報提供だ、移動は少し待ってくれ』
「いいよ、何が気になる?」
『まず……この「太陽の聖櫃」、本当に正義か?』
どくん、と。
アレクの問いに、己の心臓が大きく跳ねた理由を、私は正しく悟れない。
『お前のそばで聞いてた、第三者からの意見を言うぞ。ちなみにオレは殺されこそしたが、あの子を預かってくれてたという点ではあの組織を評価してる、っていうのも前提としてな。
思えば現状、方舟に閉じ込められるまでは山ほどいただろう神が……方舟に閉じ込められてから、減少の一途を辿ったってことはだ。もちろんそれが正義であるとして、殺されまくってたというのはあるだろうが、人が願いを持てなくなって、オレの妹みたいに寂しく死ぬやつも出てる。それって傾向としてはまずいよな、願いってほぼイコールで希望だろ?
で、もっと言うとな。神が人間の願いに共鳴して生まれる存在で、それを減らすためだっていうなら……そうして人間が減って、物理的に誰も願わなく、いや願えなくなるのが一番早いんだわ」
「……で、でもジェイドは……何よりも人のためだって、いつか太陽を取り戻すためだって!」
『ああ、分かってる。だからこれは、オレが感じたことを口にしただけだ。
……ただな、その「太陽」についても……ジェイドとイヴが夫婦だったって話を聞くと、ジェイドが取り戻したいのって本当に、恒星の方の太陽か? とも思う』
ゾッと、した。
どうして今まで、その可能性に思い至れなかったのだろう。それが答えだと言われたわけではないが、気持ち悪いほどに辻褄が合っている。
『……まあ、まだ分からねえけどさ。そういう考え方ができるって時点で、結構やべえことになってる気はするんだよな』
「そう……だね。ありがとうアレク、覚えておくよ」
『あと、すまねえがもう一つ懸念点だ。
該当の神が死ぬまでは、割と自由にできてたことが……今じゃ太陽が一括で管理してるせいで、おいそれとできなくなった、って話だが。その場合オレの「扉を開ける」って力もさ、結構馬鹿にできなくなるんだよな。
一応扉とは言ってるが、オレの力は内から外、外から内に出入りするためであれば、なんであれ容赦なく開けられる。戦闘にこそ使えないだろうが、悪用しようと思えばし放題だ。
——つまり』
オレが取り込まれた場合、下手したら防犯の概念が死ぬぞ、と。続いた言葉に目眩がするようだった。
『……アダム様がアダム様であることはまだ、どんなに信頼できるやつにも話すな。おそらくジェイドのことだから、どんな手を使ってでも殺しにくるだろうし……そうなったら方舟内での安全なんてどこにもなくなったようなものだ。
だから絶対に、言うな。最終的な事実がどうであれ、今はまだ、その時じゃないとオレは思ってる』