「……報告です。サイラスについての調査ですが、彼が情報をあまり吐かないため……思ったように進んでいません」
プリントアウトした報告書を、ジェイドに示してしばし待つ。無言のまま、それに目を通していたジェイドだったが——「フン」と机の上にそれを放り投げた。
「時間の無駄にならないといいが。現状それにも期待はできんな」
結局のところ、アレクと相談して報告する内容を絞ったため、ジェイドの元に渡ったのは「最高神と下級神について」の情報だけだ。それが吉と出るか凶と出るかは分からないものの、とりあえずこれで解放されるだろうか、と。
口を開きかけたところで、「それと」と飛んだ声はひどく冷たかった。
「提出されたはずの砂がないが、どこにやった」
「……すみません、紛失したようで……」
「そうか。まあ能力は分かっている、大したものではないから構わんが。
物の管理についてはよく考えろ、もしこれが強力な力を持つ神なら……問答無用で首が飛んでいたぞ」
ああ、アレクが怒ってる気配がある……ポーチを撫でないように意識しながら、私は「以後気をつけます」と踵を返した。
「待て。先日お前によく似た女が、深夜泣きながら外を走っていたと……近隣住民から報告を受けてな。
何があった。手短に言え」
……まあ、そうなるよなあ。
心配する声色ではなく、尋問のように問うてくるだけのジェイドに、心の端が腐り落ちていくのを感じる。やはりもう、私の父だった彼はいないのだろうか。また優しくしてもらえるかもしれない、なんて思っていた私が馬鹿だった、と。
再び踵を返すものの、にじんだ涙をどのような意味にとったか、ジェイドはさらに不機嫌な声で「言え」と。こうなることも想定して、アレクと話をしたはずなのに頭が空っぽだ。
(どうしよう、アレク)
『んー……こうしてみると予想以上にプレッシャーだな、下手なこと言っても見抜かれちまいそうではある……
もうここは、突拍子もないこと言った方がいいかもな。呆れさせる作戦の方が有効そうだ』
そうは言われても。だが黙っているにしても、もはや時間の限界は近い。下手なことを追求されずに、それでいて納得してもらえそうな理由……
「どうなんだ、言え!」
その間にも怒気は飛び、体の震えも涙も大変なことになりつつある。ああもうヤケだ、サイラスごめん後で謝る!
「サイラスに、その……好きだって、言われて……わ、私そんなつもり、なくて」
——縮み上がっていたせいで、か細い声と涙に濡れた頬は、結論から言えば効果てきめんだった。
「そういうの、今まで何も興味なかったから……怖くて泣いて、逃げちゃって……ごめんなさい、ごめんなさい……」
まあ好きって言われたくだりは本当だしな、と、なんだか急に冷めた頭で、それでもしばしめそめそしていれば「……くだらん」と。執務室からつまみ出されて、私は転がるようにして階下へと逃げた。