ロッカールームに身を潜め、緊張冷めやらぬ心臓を落ち着かせるために深呼吸する。埃を吸ってむせた。
(……セーフ、でいいのかな)
『まあセーフだろ、ああ言われちゃ追求する方が野暮ってもんだ』
(だと、いいんだけど……)
ああ疲れた、なんなんだよこの茶番劇。だが時刻確認のため、通信端末を開けばメッセージ受信の通知がある。
急ぎの用事の可能性もあるしな、と開けば、「何をされたか具体的に言え。命令だ」と。もちろん差出人はジェイドだった。
『野暮、だったかあ……』
(別の意味でアウトじゃないのこれ……)
『元父親ってところがまた、セクハラ……まあセクハラなんだが、周りから「それだけ心配なのよ」って言われるかどうかに影響するんだよなあ……』
どうしたものだろう、めそめそしながら言うのは逆に悪手だったかもしれない。いやでも他に、ごまかしようもなかったし……
(仕方ない、大分がっつりキスされましたって送るか)
『ヤケクソすぎんだろ。
……慣れてないからとは言ったわけだし、好きだって言われただけで逃げたとかでもいいんじゃねえの?』
(でも実際、あれだけ泣いてみせちゃったらね……これくらい送らないと納得されないでしょ、あとあんまり初心に見られるのも癪)
『怒られても知らねえぞ……』
言う間にも返信が届き、開けば「そうか。では今日、突然休みを取った事務員がいてな」と山ほどの雑用が目の前に並んだ。
……やっぱり素直に言っておけばよかったかもしれない……