アダムはいなかった 「雑用」1

 だが蓋を開けてみれば、与えられたそれらは「休憩室のゴミ箱を廊下に出しておけ」などの細々したもので。動き出したのは十五時ごろだが、この調子でいけば退社時間に間に合いそうだ、と。

 終わった用事を消しながら、最後にたどり着いたのは資料室の前だった。

「……今まで殺した神のリストを取ってこい、か……」

『なんでまた、そんなのをわざわざ? 組織のサーバーとかに入ってないのか?』

(ううん、組織のことをあんまりよく思ってない人からの介入があったら大変だから、ってことで、重要な情報になればなるほどアナログ主義みたいなんだよね)

『うわ出た、管理職が泣きを見るやつ。んで会社のお局様とかにさ、埃を指でなぞられて「掃除がなっていませんね」とか言われる』

(……もしかして妹さん、結構ドラマとか好きだった……?)

『え、なんで分かるんだ?』

 そりゃあ、一緒に観てたんだろうなって感じがするので……というかそこそこ古いやつに偏ってたと見た。あと埃のくだりは姑さんだと思う……!

 内心激しくツッコミを入れつつ、資料室のドアを開ける。相変わらず、うっすらと埃のにおいがした。

「ここ、デジタルもアナログも全部まとめてあるんだし、もう少し掃除してもいいと思うんだけどね。いいのかなあこれで」

 試しに近くの棚を指でなぞり、軽く吹いて埃を飛ばせば結構な量が舞う。ついでにアレクが大はしゃぎした。

 本や機器の日焼け防止のためか、窓がないのも相まって、足元へ落ちるひんやりした空気はどこか不気味で——足早に目的の棚を探すが、本の背や棚に貼ってある番号と、実際の位置があまりにも一致しない。

『……分かったぞ、嫌がらせだな』

 アレクの呟きもあながち否定できない。掃除もちろんだが、管理の仕組みも見直した方が良さそうだな、と。

 さまよい続けてはや三十分。ああジェイドの苛立った顔が見える……!

「うう、これが母さんなら一瞬で見つけるだろうに……どこにあるんだよお……」

 私は管理職でこそないが、もう既に大分泣きたい。整理整頓や探し物が得意だったイヴを思い出して、涙目になりかけたその時。

 ——目まいにも似た感覚と共に、一瞬目の焦点が合わなくなった。

「……ねえアレク、今なんか変じゃなかった?」

『え? そうか?』

 だがその感覚もすぐさま消えて、ふらついたまま辺りを見回す。そこにはきれいに整頓され、埃一つない本棚が並ぶばかりだ。何も、今までと変わったところはない。

「……あ、あった!」

 だがなぜ見落としていたのか、目の前の棚に目的のものがあった。よかったよかったと回収し、念のため開く。あまり嬉しくないが見慣れた顔が並ぶ、間違いなく探していたそれだ。

 しかしなんだろう、今の違和感。なんだかアレクとはしゃいでいたような気もするのだが、あれ? 彼はなんと言って、私は何をしたんだっけ……?

 ……だめだ、思い出せない。疲れているんだろうか。だが時計を見れば、ジェイドにリストを取ってくるよう命じられてから大分時間が経っている。おかしい、こんなに整頓された資料室でなぜ一時間もかかっているんだ……!

 慌てて資料室を出る。そのままエレベーターで彼の執務室へと向かえば、もちろんジェイドの渋い顔があった。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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