アダムはいなかった 「雑用」2

「遅い。俺は明日、撮影と来客対応で忙しいんだ。それにサイラスのことはどうした」

 そんな私に雑用を命じたのはどこの誰だ。そうは思ったが言えるわけもない。先ほどと同じようにつまみ出されて、同じように階下へのルートを逆戻りする。

 しかしなんだろう、頭のどこかが麻痺しているような感覚がある、ような。何か他のことをしていたような気もするのだが、どうしてもうまく思い出せない。

(うーん……なんかモヤモヤするけど、退社まで一時間あるし……最初に言ってた調べ物しようかな。アレクはそれでいい?)

『半分はそのために来たはずだったしな。反対する理由はねえよ。ただ今日はゆっくり寝ろよ、お前慢性的にもだが、今日も絶対睡眠不足だぞ』

(はーい。でもどうやって調べようかな、アレクのことを伏せながらできることか……)

『改めて考えると難しいな、怪しまれたら即アウトってのもきついか……』

 互いに浮かない気分のまま、ロビーにつながる廊下を歩く。だがそういえば、すっかり忘れていたことが一つあった。

(そういえば、私のこと撃とうとした人って結局誰だったんだろう)

『ああ、そういえば……今まで一度も話題にならなかったな、オレも完全に忘れてた。調べてみるか?』

(そうする。とりあえず色々、残ってる記録を見せてもらおう)

 ここまで来たらもう、思い立ったが吉日だ。さっそくロビーの窓口に向かい、事情を説明して「銃の持ち出しと返却」、加えて「階層転移申請」における記録のコピーをもらったが——

「うわあ……」

 銃の管理表の時点で、もう目も当てられないほどひどい。ほぼ常に銃を持ち歩いている私以外、ここ数か月誰も銃を持ち出し、あるいは持ち歩きしていないのだ。

『殺しはほぼお前に任せてた形かあ……他にも戦闘員はいるはずだよな?』

(いる、けどなんなら一回も銃を使ってない人すらいるよ。給料泥棒もいいとこじゃん……)

 頭が痛くなってきた。とはいえ一つ、分かったことがある。

(少なくとも記録上では……いつか横流しされて外に出た銃は、全部ここに戻ってるようだし、私みたいに持ちっぱなしの人もいないみたい。最初期に準備されてた銃の数と、今保管庫と私の手元にある数が一致してるから)

『それ以降、銃の数は増えてないんだよな?』

(うん、だからこそ数の管理が大事なんだよね。もう増やせないから下手に扱えない、っていうのは大いにある)

『組織じゃなくて、個人所有って線はないのか?』

(あるかもしれない、けどそれを調べるのはまず無理だろうね……まさかお宅に銃はありますか、なんて訊いて回るわけにもいかないし)

 仕方ない、となれば別方向で調べるしかないだろう。次に向かった医療スタッフの詰所では、皆私を見る目がひどく鋭かった。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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