アダムはいなかった 「痕跡」1

 翌日。身支度を終え、私がリビングに顔を出した時にはもう、時計の針は十五時を指していた。

「……おはよう。気分はどうだい」

「あまり、よくはないですが……すみません、昨日は。取り乱しました」

「いいよ、気にしないで。
 ……本当に、落ち着いてくれてよかった。こっちにおいで、希空」

 言われるがままに彼の隣、ソファへと座れば『……おはよう』とやや気まずげな声がする。アレクだった。

「おはようアレク。ちゃんと瓶に戻ってる……詰め替えてくれたんですね。ありがとうございます」

「ふふん、僕クラスになるとこんなの一瞬だよ。各種書類も揃ったし、とりあえずアレクも無事だし……希空が元気になってくれれば、情報収集ミッションはコンプリートだ。
 よく頑張ったね、僕も眠くなきゃそばにいたんだけど……ごめんね」

 大丈夫ですよ、と言いかけて、ふと目をやったサイラスの右手には、なぜか包帯が巻かれている。どうしたんですかこれ、と彼の手を取れば、「あ、あわわ」と裏返った声が飛んだ。

「の、希空が初めて自分から僕に……!」

「そういうのいいですから……というか私だって、私のせいで負った怪我なら心配します。
 ……でももしかして、昨日の傷が治ってないんですか……?」

『オレもその辺り、色々聞き出そうとしたんだが……何も話してくれなくてな。大丈夫だ大丈夫だって、言う割にずっと顔色も悪いし』

「む、僕は元から色白だから大丈夫だってば。包帯だって、一度人間の気持ちを体感してみたくて……」

「血が滲んでますけど」

 あ、目をそらした。しかも下手くそな口笛付きである。

「と、ともあれ君が昨日、頑張って回収してきた書類について話し合おう。君の意見を聞きたいんだ」

「サイラスがそれでいいなら、追求はしませんが……資料はどこに?」

「ここだよ。さて、それじゃあまずは銃の持ち出し記録だ」

 言って、テーブルに広げられたそれは昨日と同じ情報が書いてあるばかりで。「あれからアレクとも、少し話したんだけど」とサイラスは続けた。

  • 0
  • 0
  • 0

静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内