アダムはいなかった 「痕跡」2

「これに関しては、書かれている数が正確かどうかを確認する術がない。加えて、細かい管理は上層部がしているって話だし……もしも上層部の人間が犯人だった場合、記録を改竄されている可能性もあるからね。鵜呑みにすることだけはしないように」

 アレクと共に「はーい」と返事をして、次の書類に目を通す。これは昨日、私がなんとか回収してきた採血記録だ。

「これもまあ、見事に君しか書かれてない、と」

「そうですね……大丈夫かなこの組織……」

『オレはダメだと思うなあ……』

「で、この階層転移記録も」

「調べたところ、生産職の方は全員アリバイがありましたし……私しかいない、ですね」

『……明らかに改竄だろ、って思うオレと、働いてるのお前だけなんじゃねえのって思うオレが殴り合ってる』

「そうだねえ……希空は多分、ちょっと働きすぎだと思うよ……」

 うるさい。しかしどちらにせよ、大変な思いをした割に……得られた情報は大したことなかったなあ……

『だがまあ、書類は一応取っておこうぜ。これだけ頑張って回収したわけだしさ』

「そうだね、僕の方で保管しておくよ。
 ……あ、そうだ。そういえばなんだけど、ちょっとグロテスクなことしていい?」

「そんな、今日の晩御飯カレーでもいい? みたいなノリで訊かれても……自分で自分をグロテスクにするなら、掃除込みでどうぞですけど」

『希空もアダム様のノリに対して、結構順応してきたよなあ……』

 しみじみ呟くアレクは無視するとして、まあサイラスのことだから大袈裟に言っているのだろう、という確信はある。「今から自分の腹に手を突っ込んで、引っ掻き回そうと思う!」みたいなことでさえ言われなければ、別に構わないが果たして……

「えっとね、今から自分の腹に手を突っ込んで、探し物をしようと思うんだけど……絵面がひどいだろうから、そこ大丈夫かなって。ちなみに血を見るようなことはないよ、安心安全だね」

 どこがだ。というか半分以上当たってる辺り嫌すぎる、私が本当に順応してきたみたいじゃないか……

『……希空が頭抱えてるので代わりに訊きますけど、いったいなんのために……?』

「いや、希空を撃とうとした犯人……もしかしたら特定できるかも、と思って」

「えっ、どうやってですか?」

「ふふん、こちとら伊達に人外やってないからね。君を庇って撃たれた時の銃弾、実はまだ体内にあるんだ。
 で、僕が使える力の中に、事件に関係した物があれば……というか、事件の時近くにあった物があれば、その物が『見た』様子を立体的に再現できる、っていうのがあってさ。録画すれば動画ファイルにもできるよ、そしたらあのでっかいモニターで流すこともできちゃうわけだ」

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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