昨日あったことを話し終えると、サイラスは少し考えた後——「確かめたいことがある」と私の目を覗き込んだ。
「前から思ってたけど、イヴそっくりのきれいな赤だ。元からかい?」
「いえ、イヴにも言われたことがあるのですが……元々髪と同系色だったらしいです。ただ『あんまりにも可愛いから、わたしとお揃いにしちゃった』とか……」
『いや、すげえなそれ。最高級の加護じゃねえか』
「え、そうなの? 初耳だよ」
「イヴのことだからねえ……お揃いでもっと可愛い! くらいの気持ちでやったんだろうけど、アレクの言う通りとんでもない加護だよ。
内容を簡単に言うなら、その加護を与えられた人間は、与えた側の神が持つ力での攻撃を全て無効化できる。要するに君から攻撃されることは考えてないし、イヴからも攻撃することはないよっていう最高の愛情表現だ」
……目を閉じる。瞼越しに触れたそれは、私の無表情と合わさって「不気味」だとか「怖い」とか……そういった評価を受けがちだったけれど。
「……そっか。私のこと、そんなに大事にしてくれてたんだ……母さん……」
不器用ながらもまっすぐに、私を愛してくれていた母からの……今でも残るプレゼントの一つなのか。ならば大切にしなければ、バチが当たるというものだろう。
「僕からしたら、抜け駆けずるいぞーって言いたいけどね。希空の目青くしたかった……」
「勝手にやったら縁切りますからね」
「し、しないもん! 僕そんなに信用ない……?」
ないです、と言いたいところだが大泣きされそうなので、無言で目をそらせば視線の先まで追いかけてくる。やめろ怖い。
『で、でもアダム様。今のイヴは、色んな神の力を取り込んでるんですよね? となると別の神の力を使う場合、希空にも攻撃できるんですか?』
「うん、残念ながらできるよ。だから、今となっては気休め程度だろうね。
ただおそらく、事実改変に違和感を抱けたのも加護が影響してるんじゃないかな? 普通なら違和感もへったくれもなく、『そういうもの』として受け入れること以外できないのが、その名の通り事実改変の特徴だからね」
「そう、なんですか……」
「うん。ついでに言うと、今ここで『事実改変という概念』を君は知った。だから次回以降は、『あ、これ改変されたな』って気付けると思うよ」
なるほど、言われてみれば確かに……ファンタジーと無縁に生きていれば、まず聞くことのないワードではある。ここ最近はこの二人と行動することが多かったし、これが普通ではないことを忘れかけていた。