アダムはいなかった 「痕跡」4

 昨日あったことを話し終えると、サイラスは少し考えた後——「確かめたいことがある」と私の目を覗き込んだ。

「前から思ってたけど、イヴそっくりのきれいな赤だ。元からかい?」

「いえ、イヴにも言われたことがあるのですが……元々髪と同系色だったらしいです。ただ『あんまりにも可愛いから、わたしとお揃いにしちゃった』とか……」

『いや、すげえなそれ。最高級の加護じゃねえか』

「え、そうなの? 初耳だよ」

「イヴのことだからねえ……お揃いでもっと可愛い! くらいの気持ちでやったんだろうけど、アレクの言う通りとんでもない加護だよ。
 内容を簡単に言うなら、その加護を与えられた人間は、与えた側の神が持つ力での攻撃を全て無効化できる。要するに君から攻撃されることは考えてないし、イヴからも攻撃することはないよっていう最高の愛情表現だ」

 ……目を閉じる。瞼越しに触れたそれは、私の無表情と合わさって「不気味」だとか「怖い」とか……そういった評価を受けがちだったけれど。

「……そっか。私のこと、そんなに大事にしてくれてたんだ……母さん……」

 不器用ながらもまっすぐに、私を愛してくれていた母からの……今でも残るプレゼントの一つなのか。ならば大切にしなければ、バチが当たるというものだろう。

「僕からしたら、抜け駆けずるいぞーって言いたいけどね。希空の目青くしたかった……」

「勝手にやったら縁切りますからね」

「し、しないもん! 僕そんなに信用ない……?」

 ないです、と言いたいところだが大泣きされそうなので、無言で目をそらせば視線の先まで追いかけてくる。やめろ怖い。

『で、でもアダム様。今のイヴは、色んな神の力を取り込んでるんですよね? となると別の神の力を使う場合、希空にも攻撃できるんですか?』

「うん、残念ながらできるよ。だから、今となっては気休め程度だろうね。

 ただおそらく、事実改変に違和感を抱けたのも加護が影響してるんじゃないかな? 普通なら違和感もへったくれもなく、『そういうもの』として受け入れること以外できないのが、その名の通り事実改変の特徴だからね」

「そう、なんですか……」

「うん。ついでに言うと、今ここで『事実改変という概念』を君は知った。だから次回以降は、『あ、これ改変されたな』って気付けると思うよ」

 なるほど、言われてみれば確かに……ファンタジーと無縁に生きていれば、まず聞くことのないワードではある。ここ最近はこの二人と行動することが多かったし、これが普通ではないことを忘れかけていた。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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