「え、だって君のこれからの人生がかかってるんだよ? 怖くないわけなくない?」
「それは確かに、そういう言い方もできますけど。
……ねえサイラス、少し質問していいですか」
「なあに、答えられる範囲でなら答えてあげるよ」
「どうしてそんなに……私に、優しくしてくれるんですか」
ドアの向こうで苦笑する気配。分かってるくせに? とからかうような声が飛ぶ。
「それはもちろん、君に愛されたいからだよ。君もそれを理解してたから、一緒に死ぬなんて言い出したんじゃないのかい」
「と、いうよりですね。根本的な話です、どうして私に愛されたいなんて……他の人間はどうでもいいなんて言うんですか? 願い主であるということは、神にとってそんなに大事なことなんですか」
ベッドを出て、ドアの前に立つ。開けるつもりはないけれど、逃すことなくその答えを聞きたかった。
「……僕はちょっと、他と事情が違うからなあ。まだ言えないことをぼかしつつ、答えるとするなら……『君が好きだから』の他に『君にしか叶えられない、僕がずっと求めていた願いがある』んだ。それが答えでは不満かい?」
「そのぼかされた部分が、一番訊きたいことなんですけど」
「ごめんね。僕はずるいから、まだ教えられないんだ。
……ねえ、希空。それじゃあ僕からも質問だ。君はあんなに、アダムを嫌っていたはずなのに……どうして僕を、突き放さないでいてくれるんだい」
それをわざわざ訊いてしまうのか、この男は。いや——それを言うなら、私の質問も同じようなものか。
「……確かに最初は、アダムのことが憎くて憎くて仕方なかったです。ただあなたと知り合って……私が思っていたより、アダムって全能じゃないんだな、と思いまして」
「えっ」
「いや悪口では……うーん、でも神に対してそれは悪口か……
なんと言えばいいんでしょう、私てっきり、アダムはイヴのことなんてどうにでもできるのに、あえて『何もしなかった』のかなと思ってたんです。だから神の気まぐれひとつで、私の家庭が壊されたような気がしていた」
「……はは、なるほどね。でも実際は、思っていたより僕が優しくて好きになっちゃったって?」
足の裏が冷たい。サイラスの言い方も、ある意味では合っているが「好き」というよりは「嫌いではない」だけだ。
「優しいことだけは認めますが……なんでしょうね、悪く言えば『思ったよりポンコツだなお前』、よく言えば親しみが持てる……っていうのが本音ですね。
何でもかんでもできるはずなのに、あえてやらなかったのとそもそもできないのは全然違うじゃないですか。もちろん本気でやれば簡単なんでしょうけど、常にそうではないんだなーと」
実際ほとんど逆恨みでしたしね、と付け足せば、ほんの少しの静寂が過ぎる。