「……ほんとに? 君には僕が、そんなふうに見えてる?」
返る声はひどく震えていた。ぎょっとしてドアに体を寄せる。
「え、ちょっ泣いてないですよね? すみませんそこまで傷付くとは思わず」
「ちがう、違うんだ。まさかそう言ってもらえると思わなくて……嬉しくて」
嬉しい。そりゃあまた、予想だにしなかった感想だ。
……全能は全能なりに、私には理解できない悲しみを抱えているのだろうか。そうだとしたら難儀な話だな、と。
ひとり納得していれば、ドアの向こうで彼が立ち上がる気配がした。
「……ありがとう、希空。僕がずっとずっと欲しかった言葉を、君はなんでもないことのように言ってくれる。
ちょっと泣いちゃいそうだから、今日はここで失礼するよ。励ましに来るつもりが……励まされたのは僕の方だったね。
……おやすみ」
それきり気配がかき消えて、ああ部屋に戻ったんだな、と分かった。しかしなんだろう、まるで自分が全能でないことを望んでいるかのような物言いだった。そしてそれを指摘されたことが、嬉しくてたまらないのだ、と。
分からない。だって私は全能じゃない。同じ傷を同じ場所に抱えていない限り……いや、例えそうだったとしても他人の痛みなんて分かるものか。だからこそ、私たちは相手のため、それを理解しようと足掻いている。
……心地よい睡魔がのしかかってきた。これ以上難しいことを考えても、きっと無駄だろうとベッドに戻る。
久々に、夢ひとつ見ることなく眠った。