「待っ……」
「ああ、そうだった。そこの扉は閉めた瞬間、外側から鍵がかけられる」
ガチャン、と響いた音が、やけに白々しく私と外を断絶した。意味が、分からない。
「……しまった、罠だ……!」
ざ、と顔から血が引く感覚があった。
「……そういうことだ。ついでに言えば俺は各種記録の改竄などしていない。なぜなら俺は銃など持っていないし、五日前、この組織から出てもいないからだ」
現実が書き変わる音がする。記録改竄があったという事実すら、今この一瞬で闇に葬られてしまった。
「……清々しいまでに今の君、悪役だけど大丈夫? 彼女、せいいっぱい頑張るタイプの人が好きだって……いつか言ってたけど」
「黙れ。俺はずっと、お前を殺すために牙を研いでいたんだ。
お前の人間ごっこに七日も猶予を与えたんだ、俺はむしろ泣いて感謝される側だろうに。なあ、そうだろうアダム?」
まずい、さすがにこれは予想外だった。どうすればいいか考えても考えても、こうなってしまった以上どうしようも、ない。
しかし考える間にも、遠くから大量の足音が聞こえ始めて。無情にも開いた扉の向こうから、施設職員が殺到してきた。
「……希空、いったん退くよ。こればっかりは、無理だ」
呼ばれるがままに、サイラスの腕に収まる。そのまま自宅まで一息にワープし、私を下ろしたその直後。
「……『この家とその周辺は、事実改変の影響を受けないものとする』……」
宣言と共に、サイラスは力なく床に倒れ込んだ。