「聞いて、アダム! わたしとジェイドの家に、可愛い女の子が来てくれたんだよ。私の娘になりたいんだって!」
「……どっかから拉致ってきたのかい?」
「違います! 東の国で両親を喪って、泣いていたところを保護してきたんだから」
やっぱり拉致じゃないかとは言わない。言ったところでイヴの機嫌を損ねるだけだろうし、僕だって最近はそういう情緒を理解してきた、はずだし。
「でも本当に、人間の子供って可愛いね……甘いものとお肉が好きで、野菜が嫌いな辺り偏ってて可愛い!」
「うーん、愛で方が神のそれだよもう。そこは注意して、好き嫌いさせないようにしなきゃ」
「とは言っても、私神だもん。それにあの子、何をしてても可愛いからつい……」
「はは……まあ君とその子がいいならいいけどさ……」
まあ実際、希空というらしいその子がいることによって、色々と都合がいいこともある。聞けば自分が神であることは伝えていないと、イヴは笑いながら言った。
「いつかあの子が大きくなって、事実を理解できるようになったら言うつもりなんだ。わたしもある程度、見た目を変えながらジェイドといたけど……やっぱりこれ以上はね、ジェイドに愛想つかされちゃう」
「ふうん、ジェイドは君が老けたくらいで愛想を尽かすような男なのかい? 随分と薄情なやつだね」
「もう! でもそれ以前に……やっぱりジェイドと希空の前では、いつも綺麗なお母さんでいたいから、ね」
……きれいだなあ、と思う。
イヴは本当に、ジェイドと希空が大切なのだろう。見た目だけでなく、その精神性がとても眩しかった。そして同時に——彼女が僕のものにならないことを、強く理解して胸が重くなる。
「それからね、希空に秘密基地をあげたから……そのうちお友達を招いて、賑やかに過ごしてほしいと思う。あと、何かあったら自動的に周りの人を取り込む機能があるから、防災の意識に関してもばっちり!」
「おいおい、いずれ災害を起こすつもりみたいな言い方をするんじゃないよ。取り上げるよ?」
「あっ違う、違うの! ただやっぱり、あの子がこれ以上大事なひとを喪って……悲しい思いをしてほしくないな、と思って。今はまだ、サイコロみたいに転がして遊んでるけどね」
それいずれ誤嚥するんじゃ、と言えば「苦くしてあるから大丈夫!」などと。まったく本当に、お茶目すぎるよ君は。
「……可愛がるのもいいけど、あんまりベタベタして嫌われないようにね」
「ふふ、大丈夫! 連れてくるときに多少、わたしを大好きになるように細工してあるから!」
「だからそれは、洗脳した上で拉致したって言うんだけど……」
「でも最終的には、あの子の意思でついてきてくれたから大丈夫! 拉致でも洗脳でもないよ、ただ幸せに過ごせるようにしてあるだけ!」
うーん、大丈夫かなこの家族。でもまあみんな幸せそうだから、これはこれでいい……のか?
「……さて、それじゃあそろそろおやつの時間だからまたね。希空にパンケーキを焼いてあげなきゃ!
ふふ、あなたのお陰で毎日本当に幸せだよ。ありがとうね、アダム!」
言って姿を消した彼女に、苦笑いと共に手を振り返した。まったくもって嵐のような女性だ、僕とは似ても似つかない。
……だからきっと、彼女は永遠に知ることはないのだろう。僕が抱えたこのどす黒い感情を、笑顔の裏に隠した別の顔を。