——その頃の僕はね、それこそ微塵も感情がなくてさ。ただいつか、遠い未来に生まれるであろう君を……君の願いを。絶対に叶えてあげなくちゃいけないっていう、強い使命感で行動してたんだ。
で、そのために色々準備する過程でさ、僕は自分の近くにふわふわ漂う……イヴになる前の意思を見つけた。聞けばジェイドっていう男のために、とびきり強い力が欲しいって言う。助けてあげたいんだって、その役目は自分がいいんだって言ってた。
それで僕は、初めて君以外の存在に興味を持った。言っとくけど浮気じゃないからね、いやまあ浮気もへったくれもないか。はは。
で、だ。彼女は言うんだ。どんな形でもいいから、人間に怯えられないような実体が欲しいって。言われてみれば確かに、おぞましい見た目だったら願いとか以前に、化け物として殺されちゃうかもしれないからね。でもここで、僕はちょっとだけ……彼女が羨ましくなったんだ。
だってそうだろう? 僕にはない強い感情の元、それに従って人間界に飛び込もうとするなんて、僕達神からしたらとんでもないことなんだ。だって人間はひどく短命で、そのくせ自分の欲求のために他者を傷付けたり、何かを奪ったりする。そんな醜い者のところに、わざわざ行って助けたいだなんて……ちょっと理解が及ばなかったけど、それだけイヴがジェイドを愛してるんだなって分かったからさ。羨ましくて、いくつか条件を提示した。
……ま、今思えばその時点で、僕には感情があったんだろうね。イヴは僕が提示した条件……言い換えれば「意地悪」を、むしろありがとうって受け入れた。そして人間界に降りていって、見事ジェイドと仲良くなった。
だからその後も、イヴに続こうと色んな子が僕を訪ねてきたんだ。でもイヴと違う条件を渡したら不公平だし、同じように力を貸してあげて……僕は本当に、たくさんの神をこの人間界に送り込んだ。
そしてジェイドとイヴの二人は、結婚して末長く幸せに暮らしました。めでたしめでたし……なら、どれだけよかったんだろうね。